第164話:足頸のツボとドーパミンの関係

◆足頸を曲げる検査


上の写真は、患者さんの足頸を軽く曲げる検査をしています。
「足頸を曲げてみますので力抜いてくださいね」と言葉をかけ、患者さんの踵を下から包み込むようにして軽く屈曲してみます。

ここで診るのは、足関節を他動的に屈曲させたときに、スムーズに動くかどうかです。もし鉛のように「ギューッ」と重い場合であれば「鉛管現象」、もしくは歯車のように「ギコッギコッ」とぎこちなく抵抗する場合であれば「歯車現象」といいます。いずれの場合でも、両足首の動きを比較しながら症状に左右差があるかどうか確認してみます。
これらの「鉛管現象」や「歯車現象」がみられた場合には、神経伝達物質であるドーパミンの減少が疑われます。

◆ドーパミン減少の鑑別
脳幹の神経核から分泌する神経伝達物質のドーパミンは、人間の感情と行動に影響します。その大事なドーパミンが減少してしまうと次の症状があらわれます。

(1)意欲や興味、好奇心などが減退し、無気力な状態になる。
(2)パーキンソン病の症状(後述)

足頸を曲げる検査は、ドーパミンの減少を捉えるひとつの目安に使っていますが、大事なことは、ドーパミンがなぜ減少しているかという鑑別です。
それは次の3つのケースが考えられます。

1つ目は「パーキンソン病」(と既に診断されている場合)です。ドーパミンが通常の20パーセントに減少するとパーキンソン病になるといわれます。パーキンソン病には、「振戦(手足や頸がふるえる)」・「無動(身体の動きが緩慢になる)」・「固縮(筋肉が固くなる)」の3つの代表的な症状があります。先にとりあげた関節部の「鉛管現象」や「歯車現象」は、この中の「固縮」に該当します。足頸に限らず手首とか肘の関節の動きもこの対象部位になります。
ちなみに、「振戦」という動的(アクセル)症状は神経伝達物質のアセチルコリンが増えるために起きる症状で、一方「無動」「固縮」という静的(ブレーキ)症状は神経伝達物質のドーパミンが減少という関係になっています。つまり、パーキンソン病とは脳内における神経伝達物質間のバランスの崩れであり、これを東洋医学からみれば、当に陰陽のバランスの崩れとも理解できます。したがってパーキンソン病の治療には、西洋医学(服薬療法)だけではなく、並行して鍼灸治療を施すことも勧めています。

2つ目は「加齢」です。年齢が80代や90代になると(個人差はありますが)ドーパミンが自然に減少していきます。そうなると特にパーキンソン病と診断されなくても、足頸に固縮がみられることがあります。高齢になれば、次第に動作が緩慢になり筋肉が固くなってしまうのは、ドーパミンンが徐々に減少していくという、いわば自然な現象といえます。ここで大事なことは、実年齢に対して加齢が早いかどうかの見極めと、急に加齢が進まないように、いかに養生をするかです。それには鍼灸治療(家庭でのツボ療法も含む)がとても有効的な養生法になります。

3つ目のケースは「薬剤性パーキンソニズム」です。これは、最近特に多い、精神の病気(統合失調症やうつ病)の服用薬により、副作用としてパーキンソン病の症状を作り出してしまうことです。精神の病気に使われる薬のなかでも、特にドーパミンの働きを妨げる作用(ドーパミン拮抗作用)をもつ「向精神病薬」や「抗うつ薬」などの服用がこれに該当します。治療院に訪れる患者さんのなかでも、高齢者やパーキンソン病ではないのに、足首に固縮がみられたら、まずはそうした薬を服用していないか、その中でドーパミン拮抗作用のある薬を使っていないかを尋ねます。もし副作用の症状であれば、そのことを医師に伝えるようにアドバイスしています。

◆ツボの選択(配穴)
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以上のように、足頸の検査から固縮(鉛管現象や歯車現象)が認められた場合には、上の写真に示す3つのツボを使用しています。上から①上巨虚(じょうこきょ)、②解谿(かいけい)、③内庭(ないてい)という、いずれも胃経(正式には「足の陽明胃経」)上のツボです。

ツボの位置は、上巨虚は足三里から下ること3寸。前脛骨筋の筋腹上に位置して、かつ前脛骨筋のモーターポイント(MC)に当たるツボです。
解谿は足頸の背側中央に位置するツボです。この辺りは、足の指を背屈させる長拇趾伸筋腱や長趾伸筋腱を触れられる部位です。
そして内庭は、足の第2指と第3指の付け根の窪みに位置するツボです。
これらのツボで、解谿内庭はそれぞれ五行でいえば、経穴と栄穴であり、ふたつのツボを刺激することで陰陽のバランスも調えられると考えます。

次に経絡の面から考察すると、古典によれば「痿病には陽明胃経をつかう」とされています。この「痿病」とは筋肉が衰えて萎縮やしびれがある状態ですから、筋肉疾患には「胃経」を使うことはより最適な選択といえます。また、「陽明胃経は多気多血」との成句もあります。つまり「胃経」は経絡のなかでも「気」も「血」も豊富に流れている経絡とされています。逆に言えば、「胃経」を治療することで「気」「血」の流れを大いに改善できるということになるのです。

わたしは、これら3つのツボに灸点紙を貼り、経絡の走行に沿い①⇒②⇒③の順番で透熱灸を5~7壮繰り返し据えています。家庭でやる場合は、透熱灸に代わり「せんねん灸」のような簡便灸を使ってもよいでしょう。
この治療を継続していくと、足首の固縮が次第に改善していくことが実感できます。ぜひ家庭療法としても試してみてください。

◆むすび(鍼灸でドーパミン分泌低下を改善できるか)
足頸の固縮は表面的には筋肉疾患にみえますが、実際には脳内のドーパミン放出低下という背景があるわけです。それに対して鍼灸はどれだけの効果が期待できるのかという疑問は当然あるかと思います。そうした疑問に対して答えるならば、鍼灸は薬のような強い効果はないにしても、穏やかな効果はあると認識しています。

というのは、ドーパミンの放出に深く関与しているのが「安らぎ」の神経伝達物質であるセロトニンといわれているからです。そもそも「気の医学」「癒しの医療」と呼ばれる鍼灸治療を施すことは、身体がリラックスしてセロトニンが放出されます。また治療家と患者さんとの独特な治療空間からみても、それは「グルーミング」や「スキンシップ」と同質の効果であることから、セロトニンの放出がより期待できるというものです。
つまり、鍼灸治療によってセロトニンが放出され、それが刺激となってドーパミン放出の安定につながり、「意欲や興味、好奇心などが減退し、無気力な状態」という感情も、次第に改善してゆくと認識しています。(了)
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第150話:「華陀夾脊穴」について(2/2)



前回は、「華陀夾脊穴」(以下「華佗穴」)の主治として、『素問・繆刺篇』を基に「経絡病」を中心に説明しました。今回は「臓腑病」への応用について言及します。

◆現代中医学では
現代中医書の『針灸學簡編』(中医研究院1959年出版)を調べてみると、「華佗穴」の主治について「一般的に咳嗽、喘鳴、胸脅痛、肋間神経痛、肺結核、下肢麻痺等によしとされ、また部位別に分類すると、上胸部の夾脊穴は心肺病や上肢の病症に。下胸部の夾脊穴は胃腸病症に。腰部の夾脊穴は腰部、腹部、及び下肢の病症によい」とされています。
 上胸部の夾脊穴 ⇒心肺病や上肢の病症 
 下胸部の夾脊穴 ⇒胃腸病症
 腰部の夾脊穴   ⇒腰部、腹部、及び下肢の病症

この部位別の主治をみただけでも、「経絡病」と「臓腑病」に効く、まるで「万能のツボ」のようで、にわかに信じがたい気になります。というのも主治の通りならば「華佗穴」に隣接した「膀胱一行」線の「背兪穴」と同じになるからです。

◆沢田流の「背部三行」
ところが、その「華佗穴」の効能にいち早く注目し体系化した日本人の治療家がいました。鍼灸の名手と謳われた沢田健(1877~1938)です。沢田の自書は遺されていないのですが、弟子の代田文誌(1900~1974)による、沢田流聞書と銘打った名著『鍼灸真髄』には、沢田独特の治療理念の数々が公開されています。

その『鍼灸真髄』によれば、沢田は「華佗穴」を「背兪穴」の仲間に組み込んで体系化しています。その上で「華佗穴」(督脈から両傍0.5寸の位置)のラインを「第一行」とし、従来の「膀胱第一行」(督脈から両傍1.5寸の位置)を「第二行」、さらに従来の「膀胱第二行」(督脈から両傍3寸の位置)を「第三行」と解釈をし直しているのです。
 「華佗穴」のライン ⇒沢田流「膀胱第一行」
 「膀胱第一行」線  ⇒沢田流「膀胱第二行」
 「膀胱第二行」線  ⇒沢田流「膀胱第三行」


この場合の「華佗穴」の名称は、肝兪の内側であれば「肝兪第一行」、腎兪の内側であれば「腎兪第一行」というように、それぞれ便宜的に名付けられます。

代田の解説によれば、沢田が「華佗穴」に注目するきっかけとなったのは、シーボルトに鍼を教えたとされる石坂宗哲(1770~1841)の著『鍼灸説約』にあるといいます。ただ、石坂宗哲は「華佗穴」が応用範囲の広いことを説いていますが、「背兪穴」の仲間に組み込むまでには至らなかったとし、この沢田流「背部の三行」は、あくまでも沢田の独創的理論であると強調しています。

◆「華佗穴」の主治
したがって「華佗穴」は沢田流の「膀胱第一行」になります。代田は『鍼灸治療基礎學』のなかで、「膀胱第一行」の主治について次のような例を紹介しています。

(略)その応用として面白いのは、沢田先生の説によれば、
舌に痛みあるものが心兪第一行でとれ
眼に痛みあるものが肝兪第一行でとれ
胃に痛みあるものが脾兪または胃兪の第一行でとれ
腸に痛みあり下痢するものが大腸兪の第一行でとれ
風邪で咳嗽のでるものが、風門と膈輸の第一行でとれる
というようにして、その応用の無限なることである。

(『鍼灸治療基礎學』323頁:膀胱経第一行の応用)より

◆病の進行度による差別化
では従来の「背兪穴」とどう区別して使用すればよいのかという疑問が生じます。それに対し沢田は病の進行度に応じて使い分けると説きます。

沢田先生の説によれば、凡そ病の起こりは背腰部の第一行にあらわれ(これを第一期という)それが漸次第二行に移行し(第二期)、愈々重くなると第三行に入る(第三期)のであって、従来病が膏肓に入ると云ったのは第三期に相当する。(膏肓は第三行。京門も第三行の部位である。)
(『鍼灸治療基礎學』323頁:膀胱経第一行の応用)より

となると、沢田流「膀胱第一行」である「華佗穴」は、比較的新しい病(新病)、殊に熱のある急性病のときに、その反応を最も呈しやすいということ。逆に比較的古い病(久病)に対しては、沢田流「膀胱第三行」を取穴すればよいし、また普段の「気の調整」という意味合いでは、沢田流「膀胱第二行」を取穴すればよいと解釈できます。
 「急性病(新病)」⇒ 沢田流「膀胱第一行」(華佗穴)
 「気の調整」   ⇒ 沢田流「膀胱第二行」(背兪穴)
 「慢性病(久病)」⇒ 沢田流「膀胱第三行」


◆結びに
以上のように、「華佗穴」を沢田流の「背部三行」の一部として解釈し、「臓腑病」の治療に活用しています。たとえば経絡診断で「肝虚証」のときは「背部三行」上のツボで、「肝兪第一行」と「肝兪」と「魂門」の横に並ぶ3穴の反応を確かめ、それと病の進行度と照合しながらツボを決めます。殊に病が昨日今日のものや、急性疾患であれば、必ず「華佗穴」である沢田流「第一行」の反応を確かめるようにしています。
鍼灸の名手・沢田健が遺した智慧を継承しつつ、こうして臨床で検証していくことが、わたしたち治療家の務めだと考えております。(了)


※代田文誌著『沢田流聞書・鍼灸真髄』医道の日本社(昭和51年)
沢田流の真髄を紹介したロングセラー書。
※代田文誌著『鍼灸治療基礎學』医道の日本社(1940年)
※石坂宗哲(1770~1841)
江戸後期の鍼灸医家。オランダ医学を研究し、鍼灸での漢蘭折衷を計った。彼の鍼灸術は『鍼灸説約』に説かれている。

第149話:「華陀夾脊穴」について(1/2)



◆はじめに
脊柱(脊椎)を挟み込むような位置に、左右一対ずつの「華陀夾脊穴(かだ・きょうせきけつ)」というツボがあります。成書には「第1胸椎から第5腰椎までで、それぞれの棘突起(きょくとっき)の下、両側に0.5寸離れた位置にあり、左右各々、胸椎の傍(胸夾脊)に12穴、腰椎の傍(腰夾脊)に5穴、合計17穴」とあります。
ここで「棘突起の下」とは脊椎間の谷間(凹部)のこと。骨度法(古代のヒューマンスケール)によれば(患者さんの)親指の幅が「1寸」とするので、両側「0.5寸」とは脊椎間の谷間から約1センチの位置になります。

ツボ名に冠した「華佗(かだ)」とは後漢末に活躍した名医です。漢薬や針灸には非凡な才能を示し、問診もせずに病気の原因を突きとめ、ときに「麻沸散(まふつさん)」という麻酔薬を使って外科手術をし、または「五禽戯(ごきんぎ)」という導引術(今でいう体操法)を考案したとされる人物です。また『三国志』では、魏の曹操の治療を断ったとする罪で捕らえられ、ついには獄死と記されるように、華佗は体制に与(くみ)しない孤高の名医としても描かれています。

この「華陀夾脊穴」(以下「華佗穴」)は、名医「華佗」の名を冠することからも、歴代の医家たちが「華佗穴」を特別重要なツボとして扱ってきたことは明らかです。
そこで今回は、関連する古典の文献、近代の治療家による捉え方、さらに、わたしなりの使い方などを織り交ぜながら、「華陀穴」の魅力に迫ってみます。

◆古典の『素問』では
「華陀穴」について初めて触れた文献は『黄帝内経・素問(こうていだいけい・そもん)』の繆刺論篇(びゅうしろんへん)にあります。
その内容は「邪気が太陽経の絡(背中を走る膀胱経)に宿ると、痙攣を起こして背中が引きつれ脇に響いて痛む。そのときは大椎から下の位置で、背骨の両傍を強く押さえて痛む箇所にツボを取り、これを三刺する」と記載しています。

これは現代で言えば、「ぎっくり背中」や「ぎっくり腰」に該当する筋性疾患に効くツボであると解釈できます。ちなみに唐代の医学書『千金要方』においても、「華陀穴」は「転筋(こむらがえり)」に効くとされ、これも筋肉のこわばりの症状になります。
つまり、「華陀穴」とは総じて筋肉がこわばるような疾患、しかも(下肢も含めた)背部の膀胱経上に現れた筋性疾患に適用するツボであると考えられます。

◆実際の取穴法
では実際の取穴法を説明します。先に述べたように「華陀穴」は複数のツボ群です。当該症状を治療するためには、症状を最も改善できるツボを、そのゾーンから、いかに正確に捉えるかがポイントになります。「指の極性」を応用したわたし流の取穴法を基に、以下の各疾患についての手順をまとめてみました。

【頸痛の場合】:
これは、朝起きると頸が回らない「寝違い(落枕)」などの頸痛のケースです。
ベッドに側臥位(患部を上)で寝てもらいます。
頸椎の周辺を慎重に押して痛い処を探します。往々にして頸椎の横突起辺りに圧痛を伴う凝りを確認できます。確認できたらそこに印をつけます。
右手の第2第3指の指腹でその印をした箇所を軽くゆすります。ゆすると痛いことを患者さんに必ず確認します。
左手のN指(第3指)の指尖を、周辺の任意の「華陀穴」にゆっくりスライドさせて、同時に触診している右手の第2第3指の指腹で感じる凝りが「ストン」と弛む箇所を探します。
「ストン」と弛むと同時に、患者さん側も痛くなくなることを確認します。
そこが治療すべきツボ「華陀穴」の位置となります。
尚、頸痛につかう「華陀穴」は、胸椎の1番から4番辺りのいずれかの胸夾脊にあります。
《参照》⇒第167話:患部の近位取穴法(頸痛編)

【背筋痛の場合】:
これは、背骨の両側にある脊柱起立筋や、肩甲骨の内側にある菱形筋などを傷めた、所謂「ぎっくり背中」のケースです。
ベッドに側臥位(患部を上)で寝てもらいます。
痛いという患部を確認します。そこに印をつけます。尚、痛い姿勢をさせて痛みを再現させると患部の位置がより正確に把握できます。
右手の第2第3指の指腹で、印をした箇所を(筋線維と直角方向に)軽くゆすり、ゆすると痛いことを患者さんに必ず確認します。
左手のN指(第3指)の指尖で、胸夾脊の任意の「華陀穴」をスライドさせて、同時に触診している右手の第2第3指の指腹で感じる凝りが「ストン」と弛む箇所を探します。
「ストン」と弛むと同時に、患者さん側も痛くなくなることを確認します。
そこが治療すべきツボ「華陀穴」の位置になります。
尚、背筋痛につかう「華陀穴」は、患部から斜め上方にある胸夾脊にあります。

【腰痛の場合】:
これは、腰椎周囲の筋肉、腸骨稜上部の筋肉、仙腸関節周りの筋肉などを傷めた、所謂「ぎっくり腰」のケースです。
ベッドに側臥位(患部を上)で寝てもらいます。
痛いという患部を確認します。そこに印をつけます。尚、痛い姿勢をさせて痛みを再現させるか、立位で正常な姿勢に戻してあげると、患部の位置がより正確に把握できます。
右手の第2第3指の指腹で、印をした箇所を(筋線維と直角方向に)軽くゆすり、ゆすると痛いことを患者さんに必ず確認します。
左手のN指(第3指)の指尖で、腰夾脊の任意の「華陀穴」をスライドさせて、同時に触診している右手の第2第3指の指腹で感じる凝りが「ストン」と弛む箇所を探します。
「ストン」と弛むと同時に、患者さん側も痛くなくなることを確認します。
そこが治療すべきツボ「華陀穴」の位置になります。
尚、腰痛につかう「華陀穴」は、患部から斜め上方にある腰夾脊にあります。
《参照》⇒第166話:患部の近位取穴法(腰痛編)

◆「華陀穴」への治療法と効果の確認
取穴した「華陀穴」には刺鍼か施灸を選びます。
刺鍼の場合は、1センチぐらいの刺入で雀啄して少し響かせます。施灸の場合は透熱灸を5~7壮据えます。
治療後、患部がゆすっても痛くないかを確認します。腰痛の場合は、立位になってもらい骨盤(前傾や後傾)や背骨(左傾や右傾)の変位が是正されているかを確認します。

◆「華陀穴」の特長
「華陀穴」はシャープな効き目を呈するという実感を持っています。特に筋肉の表層部というより、筋肉の深層部や、さらに靭帯レベルに達するような感触を得ています。
したがって、正確な取穴と適量な刺激量を得られれば、靭帯レベルの緊張を弛めることによって、背骨や骨盤の歪みまでが正常に戻すことができます。
また刺鍼の安全性も期待できます。特に背筋痛のように、患部が胸背部であると、鍼の深刺しは気胸を起こす危険があります。その点、患部に刺鍼することなく、華佗穴に刺鍼することで痛みがとれれば、そうした医療事故を起こさずに済みます。

次回は経絡病から臓腑病への使い方について説明します。(つづく)


※『黄帝内経・素問』の繆刺論篇「華佗夾脊穴」の行
「邪客於足太陽之絡、令人拘攣背急引脇而痛、
刺之従項始数脊椎夾脊疾按之應手如痛刺之傍三■立巳」

※「指の極性」を使った取穴法について
参照記事⇒「第46話:磁石と指の極性による触診技術」
参照記事⇒「第103話:患部の近位取穴法」

第138話:ツボ「陽池」と「委陽」

◆三焦経に関連したツボ◆
今回は三焦経に関連したツボ「陽池(ようち)」と「委陽(いよう)」の二つを紹介します。「陽池」は臓器の陽気を高める効果があり、「委陽」は浮腫(むくみ)などに水はけを改善するツボとして使います。「陽池」は三焦経のツボ。一方「委陽」といえば膀胱経のツボでありながら三焦経の下合穴(しもごうけつ)と呼ばれるツボです。
「実体のない腑」と呼ばれる「三焦」を説明した上で、これら二つのツボについて順を追って紹介します。

◆「三焦」とは
「三焦」の経絡である「三焦経」は手の薬指(第3指)から手の甲を通り、前腕・上腕の後側を通り、肩から耳の周りに至る「手の経絡」です。ツボは項(うなじ)で終わっていますが、その前に支流として胸部(上焦)、腹部(中焦)、下腹部(下焦)へと連絡しています。この上中下の「三焦」へ広範囲に連絡していることが大事なポイントです。
そこで「三焦経」を考えるには、「経絡病」と「臓腑病」のふたつの面から捉えます。

まず「経絡病」であれば、経絡が走る部位の疾患に関連するということ。たとえば五十肩や頚腕症候群などの上肢の痛みや、または耳に関連した眩暈や耳鳴りなどの症状が、三焦経のライン上が最も反応を顕著に呈するようであれば、三焦経のツボを選穴します。

次に三焦経の「臓腑病」としての側面を考えると、これがなかなか「実体のない腑」という特異な存在であるために、歴代の医家が「三焦学説」として諸説様々に語られてきた経緯があります。そのなかで、わたしが採用している学説は「三焦は臓器の陽気をつかさどる処でありこれを『三焦の原気』と呼ぶ」というものです。

三焦の「焦」は「焦がす」という字。それは「火」であり「陽気」を示します。身体の3か所「上焦」「中焦」「下焦」にある陽気全体を統率しているのが「三焦」の役割です。「上焦」には「心陽」、「中焦」には「脾陽」、「下焦」には「腎陽(命門の火)」というように、各臓器にそれぞれの陽気がいわば熱エネルギーとして生命活動に係わっています。それらを下支えしているのが「三焦」ということになります。

◆ツボ「陽池」=陽気を高める


「陽池」は写真のように、手の甲にあるツボで、薬指と小指の間を指でなぞって止まる処です。陽池は三焦経の中でも「原穴(げんけつ)」と呼ぶ大事なツボです。原穴はもっとも臓器にはたらくツボですから、陽気全体を統率する「三焦の原気」がもっともはたらくツボとなります。したがって「陽池」というツボは陽気不足の症状に使われます。

たとえば、胃癌の術後に消化器系が十分にはたらかず、腹部をはじめ足腰が冷え切ってしまうケースがあります。中焦の「脾陽」がよわいばかりか足腰を温める下焦の「腎陽」にまで影響があるという状態です。そうした症状には「陽池」にお灸(透熱灸5~7壮)を施します。
また、心臓機能が衰えて「心不全」の様相が見受けられるケースです。上焦の「心陽」がふるわないと、肺に水が溜まりやすくなります。そこまでの重篤なケースに至らないまでも、心臓のはたらきが弱そうで身体の冷えが認められるときは「陽池」にお灸(透熱灸5~7壮)を施します。
鍼でもよいのですが、陽気不足による冷えの症状には、お灸の方がより効果的です。
このように、身体を温めるエネルギーが明らかに不足している症状群には、『三焦の原気』を高める「陽池」のツボを使い、さらに毎日自宅で施灸してもらうように指導しています。

◆ツボ「委陽」=水はけをよくする


「三焦」のはたらきでもうひとつ大事なことは「水分代謝をつかさどる」ことです。これは先の「三焦の原気」が衰えると冷えとともに水はけが悪くなり浮腫(むくみ)を呈しやすくなる-という説明もできるでしょう。

そこで登場するのが、浮腫(むくみ)に効果がある「委陽」というツボです。「委陽」は三焦経の「下合穴(しもごうけつ)」と呼ばれますが、写真のように膝の裏外側の窪みに位置している、そもそも膀胱経のツボなのです。この「下合穴」というのは「足の膀胱経」のツボに「手の三焦経」の役割を代行的に託したという意味になります。

たとえば、膝に人工関節を施した術後で、膝周辺の浮腫が顕著なケースです。「委陽」に施灸(透熱灸5~7壮)すると、治療を終えて帰るころには、足が幾分細くなったのが靴を履く時点で実感するといわれます。そのくらい即効性を発揮することがあります。
また、耳周りの三焦経に反応が顕著に現れている「突発性難聴」とか「耳鳴り」のケースでは、三焦経上が水はけの悪い印象をもちます。そのときは三焦経の外関というツボに瀉法の鍼をしてから、「委陽」に施灸(透熱灸5~7壮)をすると、一定の効果が得られます。
このように、浮腫を呈するなど所謂「水はけがわるい」症状群には、ツボ「委陽」への施灸をお勧めします。(了)

第130話:「足三里」周辺のツボ

◆足三里の周辺
今回は、足三里の周辺のツボで、同じ胃経のツボ「上巨虚(じょうこきょ)」「下巨虚(げこきょ)」そして「豊隆(ほうりゅう)」の3つを紹介します。
「上巨虚」は大腸の疾患に、「下巨虚」は小腸の疾患に効き、共に「下合穴(しもごうけつ)」と呼ばれています。そして3つ目の「豊隆」は痰をとるツボとされています。これらは胃経のツボなのに、なぜ他の臓腑に効き、そして痰をとる作用があるのでしょうか? 順を追って説明します。



◆下合穴という安全装置
では、はじめに「下合穴」について説明します。「上巨虚」を「大腸経の下合穴」、そして「下巨虚」を「小腸経の下合穴」と呼びます。この「下合穴」とは、上(手)の経絡のツボの代わりに下(足)の経絡のツボを使うという意味になります。
「大腸経」は人差し指から肩先に向かう経絡で、「小腸経」は小指から肩の後側に向かう共に手の経絡です。「大腸経」にも「小腸経」にも、実は大腸と小腸それぞれの疾患(臓腑病)に効くツボがないのです。では何に効くのかといえば、経絡上の筋肉組織や器官(鼻とか眼)に関連した疾患(経絡病)に効くとされています。
となると「大腸経」も「小腸経」も名前に臓腑を冠していながら、臓腑に効かないのであれば当に名前負けになります。そこで先人は「下合穴」という安全装置をつかい、代わりとして足の胃経上の「上巨虚」と「下巨虚」にその役割があることを知らしめた、と想像しています。

◆「上巨虚」は大腸に効く
それでは各ツボの紹介です。「上巨虚」の位置は、足三里から指4本(第2~5指を合わせた第2関節の幅)下った処にあります。「大腸経の下合穴」である「上巨虚」は、下痢や便秘などの大腸の症状に効きます。たとえば下痢をしたときには、押すとイタ気持ちいいとか、ツボ周辺が張って痛くなるなど、症状に応じて比較的反応がでやすいツボです。
ちなみに、お臍から横へ指3本(第2~4指を合わせた第1関節の幅)の処に「天枢(てんすう)」という胃経のツボがあります。これは「大腸の募穴(ぼけつ)」といって、これも大腸の症状に効くツボです。こうして胃経には、大腸に効くツボが「上巨虚」と「天枢」の2穴あることになります。下痢や便秘などの症状があれば、この2穴を併せて鍼やお灸をするとより効果があります。

「上巨虚」の効用で、もうひとつ紹介したいのが筋肉のマッサージ効果です。このツボは「前脛骨筋(ぜんけいこつきん)」という筋肉上にありますが、「上巨虚」に低周波のような電気刺激を加えると、前脛骨筋がより大きくピクッと動きます。電気刺激により筋肉が最大収縮するポイントをモーターポイント(MP)といいますが、前脛骨筋のMPがツボ「上巨虚」と符合するのです。
したがって下腿に運動性の疲労がたまりやすい方や、変形性膝関節症によるO脚の方は、この前脛骨筋がパンパンに張りやすくなります。そこでMPである「上巨虚」に、鍼やお灸を施せば、周辺の固くなった筋肉をほぐして血行を改善してくれます。

◆「下巨虚」は小腸を調える
次にツボ「下巨虚」の位置は、「上巨虚」からさらに指4本(第2~5指を合わせた第2関節の幅)下った処にあります。「小腸経の下合穴」である「下巨虚」は、小腸の症状に効きます。食欲が減退して下腹部が張り、便が柔らかいもしくは下痢をするような症状です。

東洋医学がいう「脾胃」とは、西洋医学での「胃腸」(消化器系)に当たります。したがって「脾」はむしろ「小腸」に近い臓器とみてよいでしょう。胃を代表する「足三里」と小腸を代表とする「下巨虚」を同時に治療することで「胃」と「脾」のバランスを調える効果が期待できます。特に近年、小腸の免疫機能が注目され、腸内環境が身体の健康に深くつながっていることが分かってきました。しかしながら東洋医学の世界では、「脾胃」を調えることが身体全体の健康につながることを、すでに先人たちは認識していました。
そうした意味合いからも、ツボ「下巨虚」は「足三里」と併用することをお勧めします。

◆「豊隆」は痰をとる
最後にツボ「豊隆」の位置は、「上巨虚」と「下巨虚」の中間よりやや下にあって、ラインから少し下に外れた位置にあります。「豊隆」の効能については、現代中医学では必ずといってよいほど「去痰(痰をとる)」と記載されています。現代中医学の教条主義的な面を嫌うあまりに、正直わたしはこの「去痰」については全く信用していなかったのです。というのも日本鍼灸では「豊隆」に去痰の効能があるとする記載を目にしたことがないからです。

ところが、風邪で痰が絡むと訴える患者さんを治療した際、念のため「豊隆」の反応を調べてみると、これがしっかりあるのです。ならばと、左右の「豊隆」穴を押して、より痛い方に瀉法の鍼(ズーンと響く鍼)を施してみます。すると次の来院した折には「あの鍼をされてからびっくりするくらい痰がなくなった」と言ってよろこんでもらいました。
また、風邪にかぎらず、たとえば脾胃(消化器系)のはたらきが弱くて水はけがわるく、慢性的に痰が絡んでいる方がいます。そうした方には毎日「豊隆」に自宅施灸を勧めています。こうした慢性のケースにおいても、痰の量が軽減するという一定の手応えを感じています。

痰をとるツボは、通常であれば誰しもが肺経のツボに求めます。それがなぜ胃経の「豊隆」なのでしょうか。その回答を古典の成句に求めると「肺は貯痰の器、脾胃は生痰の源」とあります。これは「痰は肺に関係するように思えるけど、肺は痰を貯蔵しているだけであって、肝心なことは痰を生成する原因が脾胃の弱さにある」という意味になります。したがって生痰の源の脾胃を代表して、ツボ「豊隆」を使うことで痰の生成が弱まるとみています。(了)