第145話:「六角形」の経絡ネットワーク(2/2)



◆三つの「台形」◆
六角形の経絡ネットワークについては、4つの経絡で結ばれた【台形】が3個、120°の角度で放射状に配置している見方をすることを前回説明しました。分かりやすくするために、【台形A】【台形B】【台形C】を色分けしたのが上の図です。

 【台形A】:①肺経[太陰]⇒②大腸経[陽明]⇒
       ⇒③胃経[陽明]⇒④脾経[太陰]
 【台形B】:⑤心経[少陰]⇒⑥小腸経[太陽]⇒
       ⇒⑦膀胱経[太陽]⇒⑧腎経[少陰]
 【台形C】:⑨心包経[厥陰]⇒⑩三焦経[少陽]⇒
       ⇒⑪胆経[少陽]⇒⑫肝経[厥陰]

◆経絡的治療の「配穴法」
経絡的治療の基本則は「陰主陽従」でした。陰経絡を中心に診断と治療を進め、陽経絡は従属的な治療対象とします。5つの陰経絡のなかで、最も気の流れが弱いところを以て「陰虚証」とし、それが患者の体質を表します。具体的には「肺虚」、「脾虚」、「腎虚」、「心包虚」、「肝虚」の5つが基本証となります。

これらの「陰虚証」の配穴法(ツボの取り方)は、上記の該当する【台形】に示す経絡と、その母となる経絡からツボを選びます。それは、当該陰経絡の流注において最も密接な関係性をもった【台形】に着目して、その中での陰陽のバランスをとるという考えに依拠しています。
ちなみに「肺虚」と「心包虚」の2証であれば、母となる経絡は同じ【台形】の中にありますが、他の3証では隣接した【台形】にあります。

 ◎配穴法の着目点
  「肺虚」 ⇒【台形A】+母:脾経(同太陰)
  「脾虚」 ⇒【台形A】+母:心包経(対角)
  「腎虚」 ⇒【台形B】+母:肺経(対角)
  「心包虚」⇒【台形C】+母:肝経(同厥陰)
  「肝虚」 ⇒【台形C】+母:腎経(対角の同少陰)

具体的な配穴は次のようになります。但しこれは、わたし流のやり方です。あくまでも経絡的治療におけるひとつの配穴法として捉えてください。尚、留意すべき点は次の3点です。

(a) 陰経絡は2つまで:主経絡と母経絡の2つまでとします。陰経絡を3つ以上使ってしまうと、焦点が希薄になり、本来の経絡的治療の目的から逸脱してしまいます。
(b) 絡穴を使う:ツボは「絡穴」を多用します。「絡穴」は「三陰三陽」や「表裏」などの関係を通して、他の経絡へ連絡しやすい性質があるからです。
(c) 陰経絡の要穴は左右片側を使う:左右両側の2穴を使うよりも、経験的に、片側1穴を使う方が明らかに効き目に違いがあります。

 ◎経絡的治療の基本配穴
  「肺虚」 ⇒ r列缺(肺)+r公孫(脾)+合谷(大)+足三里(胃)
  「脾虚」 ⇒ r公孫(脾)+r内関(包)+合谷(大)+足三里(胃)
  「腎虚」 ⇒ w照海(腎)+r列缺(肺)+腕骨(小)+飛陽(膀)
  「心包虚」⇒ r内関(包)+l中封(肝)+外関(三)+陽陵泉(胆)
  「肝虚」 ⇒ l中封(肝)+r照海(腎)+外関(三)+陽陵泉(胆)
   ※陰経絡のツボは片側。r:右側 l:左側 w:男は左側、女は右側
   ※陽経絡のツボは左右を使用。(大)大腸経、(小)小腸経、(三)三焦経

以上の基本配穴による治療は、経絡的治療の「全体治療」であり「本治法(ほんちほう)」と呼ばれるものです。

◆陽経絡の反応傾向
一方、陽経絡を中心に治療する「部分治療」は「標治法(ひょうちほう)」と呼ばれます。
陽経絡のツボを「標治法」として使う場合は症状に応じて使います。ところが、症状に応じて反応している陽経絡のツボであっても、結局それは「経絡ネットワーク」枠内にある経絡にあることが多いようです。あくまでも経験的な感触ですが、主経絡に応じて決まった陽経絡上に症状が生じやすい傾向にあるといえるのです。
たとえば、頸肩こりで例を挙げれば、「肺虚」の人は子午軸の関係である「膀胱経」の頸こり、「脾虚」の人は子午軸の関係である「三焦経」の肩こり、さらに「腎虚」の人は「太陽」系の「小腸経」や「膀胱経」の頸肩こり、「心包虚」や「肝虚」の人は「少陽」系の「三焦経」や「胆経」の肩こりが多い―という具合です。

◆陽経絡のツボの選び方
陽経絡上の症状に対してどのようにツボを選ぶかは、次の3つの方法があります。
五十肩の治療を例にして、それぞれのツボの取り方の違いを説明します。そのなかで一番効果のあるツボを選定します。

(a) 循経取穴でツボを選ぶ:痛いところの部位がどこの経絡かを判別し、その経絡上の手や足にある要穴にツボを求めます。たとえば左五十肩の場合、肩関節の「臂臑(ひじゅ)」(大腸経のツボ)の痛みをとるのに、同側の左肘外側にある大腸経のツボ「曲池(きょくち)」を使うなどです。
(b) 同一「三陽」経絡上の絡穴を選ぶ:たとえば手の陽明系の痛みとるのに、足の陽明系のツボを使うこと。先の左五十肩の場合であれば、肩関節の「臂臑(ひじゅ)」(大腸経のツボ)の痛みをとるのに、同側の左下腿外側にある胃経のツボ「豊隆(ほうりゅう)」や「条口(じょうこう)」を使うなどです。
(c) 子午軸の経絡上の絡穴を選ぶ:第143話で説明した「子午鍼法」のこと。先の左五十肩の場合、肩関節の「臂臑(ひじゅ)」(大腸経のツボ)の痛みをとるのに、反対側の右足の内くるぶしにある腎経のツボ「大鍾(だいしょう)」を使うなどです。

これらのツボの触診法は次の通りです。
施術者は右手指で患部に触れ、手指を離さないままに軽くゆすり、同時に施術者の左手指のN指を当該ツボ付近に軽く触れます。そのときに患部の緊張が最も弛むと感触を得たポイントがツボの正しい位置です。それと同時に、患者さん自身も、ツボに触られた瞬間に、施術者の手指でゆすられた患部の痛みが軽減することを自覚してもらいます。3つのツボで、こうした双方向性での確認診断をすることで、一番効果のあるツボを決めます。

◆まとめ
鍼灸治療は、痛い処にツボを求めて鍼灸を施しても、もちろん一定の効果はあります。ところが、より効果的に発揮させるには、実は手とか足の離れたツボを使うことです。そのほうが患部を改善するに留まらず、明らかに身体全体に効果が及ぶのです。ただし、そうした事実を経験的に知り得た先人たちは、わたしたちに統一した回答として細かく提示してきたとは限りません。
むしろ東洋医学とは-患者さんそれぞれが固有のストーリー(病歴)を抱える、あくまでも「個の医療」として扱うべきもの-と強調されてきました。
したがって、「個の医療」であるからこそ、より細かな四診を通し、経絡やツボの声を直に訊くことが求められます。治療家の役割は、患者さんの経絡やツボと対峙して、身体の声を聴くことです。その診断根拠となる概念のひとつが、この「経絡ネットワーク」であると言えるわけです。(了)
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第144話:「六角形」の経絡ネットワーク(1/2)



◆「十二角形」の「円環図」◆
第141話で紹介した「子午流注」の円環図は、12本の経絡を「十二辰刻」に合わせたものでした。これは円環というよりむしろ「十二角形」といってもよいものです。
そこに規則性があるとすれば、「手の経絡」と「足の経絡」が「手⇒手⇒足⇒足⇒・・・」、
また「陰経絡」と「陽経絡」が「⇒陽⇒陽⇒⇒・・・」という順番で並んでいること。さらには180度で向き合う経絡同志が「子午軸」と呼ぶ特別な関係にあるということでした。

 ①肺経[手]⇒②大腸経[手]⇒③胃経[足]⇒④脾経[足]⇒
 ⑤心経[手]⇒⑥小腸経[手]⇒⑦膀胱経[足]⇒⑧腎経[足]⇒
 ⑨心包経[手]⇒⑩三焦経[手]⇒⑪胆経[足]⇒⑫肝経[足]⇒

◆「十二角形」から「六角形」へ
この「十二角形」を、試しに陰経絡を内側の「六角形」にし、同時に陽経絡を外側の「六角形」になるように並び替えてみたのが上の図です。少し見づらいかもしれませんが、青い矢印に沿って①肺経から⑫肝経と流注は続いています。

この「六角形」に作り替えてみたのはもう10年前のこと。ちょっとした試みが、実は意外な発見をもたらします。「子午流注」を2重の「六角形」にしただけで、たとえば陰陽の位相を表す「三陰三陽」とか、臓腑間の「表裏」が、実にシステマティックに配列されていることにまずは驚かされます。それと最も大事な要点としては、経絡間の関係性、所謂「経絡ネットワーク」の全貌が、この「六角形」を通すとはっきりと見えてくるのです。
そこで今回は、この「六角形」が意味する「経絡ネットワーク」の全貌と臨床でどう活用するのかを紹介してみます。

◆「六角形」の3つの【台形】
この六角形は、見方をかえると4つの経絡で結ばれた【台形】が3個、120°の角度で放射状に配置しているように見えます。これらの【台形】を流注の順番から、仮に【台形A】【台形B】【台形C】とします。

 【台形A】:①肺経[太陰]⇒②大腸経[陽明]⇒
  ⇒③胃経[陽明]⇒④脾経[太陰]
 【台形B】:⑤心経[少陰]⇒⑥小腸経[太陽]⇒
  ⇒⑦膀胱経[太陽]⇒⑧腎経[少陰]
 【台形C】:⑨心包経[厥陰]⇒⑩三焦経[少陽]⇒
  ⇒⑪胆経[少陽]⇒⑫肝経[厥陰]

これらの【台形】は共通した要素で構成されています。上辺(短辺)の両端は陰経絡の同一「三陰」同志が並び、そして下辺(長辺)の両端は陽経絡の同一「三陽」同志が並んでいます。さらに上下端は、陰経絡と陽経絡がちょうど表裏の関係になっています。さらに流注の特徴としては、陰経絡同志は直接繋がらず、ふたつの陽経絡を間に挟んで間接的に繋がっているということです。

たとえばこれを【台形A】を使って説明すると、上辺両端は「肺経」と「脾経」で、共に陰経絡の「太陰」に属します。そして下辺両端は「大腸経」と「胃経」で、共に陽経絡の「陽明」に属します。さらに上下端の、「肺経」⇔「大腸経」と「脾経」⇔「胃経」は表裏の関係になります。さらに流注の特徴としては、「肺経」と「脾経」は直接繋がってはおらず、「大腸経」と「胃経」の陽経絡を間に挟んで間接的に繋がっています。

◆対角線上の関係
次に、六角形の対角線に注目すれば、「肺経」⇔「腎経」、「脾経」⇔「心包経」、「心経」⇔「肝経」の3つの組み合わせがありますが、不思議なことに、この対角同志の「経絡」間には次のような特徴があります。

(a) 2組の対角に「母子」の関係あり
 肺経 (母)⇔ 腎経(子)
 心包経(母)⇔ 脾経(子)
(b) 2組の対角には「奇経」の関係あり
 内関(心包経)陰維脈 ⇔ 公孫(脾経)陰蹻脈
 列缺(肺経) 任脈  ⇔ 照海(腎経)衝脈
(c) すべての対角には「子午軸」が隠されている
 「肺経」の「子午軸」は、対角の「腎経」の裏である「膀胱経」
 「脾経」の「子午軸」は、対角の「心包経」の裏である「三焦経」
 「心経」の「子午軸」は、対角の「肝経」の裏である「胆経」
 「腎経」の「子午軸」は、対角の「肺経」の裏である「大腸経」
 「心包経」の「子午軸」は、対角の「脾経」の裏である「胃経」
 「肝経」の「子午軸」は、対角の「心経」の裏である「小腸経」

以上が「六角形」が意味する「経絡ネットワーク」の全貌です。これらを臨床でどう生かすかは次回説明します。(つづく)


※「三陰三陽」について
「三陰」には太陰・少陰・厥陰があり、「三陽」には陽明・太陽・少陽がある。これらは陰陽の位相変化を表している。これらに足の経絡と手の経絡が次のように配当される。
◎「三陰」の陰経絡    
  太陰:①肺経[手]+④脾経[足]  
  少陰:⑤心経[手]+⑧腎経[足]  
  厥陰:⑨心包経[手]+⑫肝経[足] 
◎「三陽」の陽経絡
  陽明:②大腸経[手]+③胃経[足]
  太陽:⑥小腸経[手]+⑦膀胱経[足])
  少陽:⑩三焦経[手]+⑪胆経[足]

※「表裏」について
臓は陰で裏、腑は陽で表として、臓腑間には表裏の関係が次のようにある。
  ①肺経[裏]⇔②大腸経[表]
  ④脾経[裏]⇔③胃経[表]
  ⑤心経[裏]⇔⑥小腸経[表]
  ⑧腎経[裏]⇔⑦膀胱経[表]
  ⑨心包経[裏]⇔⑩三焦経[表]
  ⑫肝経[裏]⇔⑪胆経[表]

※「奇経」について
病症が慢性域に入ると、反応する経絡がバイパスラインに移行する。
そのバイパスにあたる特殊な経絡を「奇経」8脈という。
病症に応じて奇経2脈(合計4組)の組み合わせで2穴治療ができる。
  陰維脈:内関(心包経)⇔ 陰蹻脈:公孫(脾経)
  任脈:列缺(肺経)  ⇔ 衝脈:照海(腎経)
  陽維脈:外関(三焦経)⇔ 帯脈:臨泣(胆経)
  督脈:後谿(小腸経) ⇔ 陽蹻脈:申脈(膀胱経)

第143話:「五角形」の経絡ネットワーク



◆五行論における母子関係◆
子供にかける愛情においては、母親に敵わないことは誰しもが認めるところ。母親は「子供のためなら命を賭しても」と口にしても「夫のためなら・・」とはまず言いません。
この母なる力の存在は、東洋医学では五行論における「相生(そうせい)関係」に見出せます。五臓のそれぞれには、母なる力を発揮して下支えしようとする他の臓器が必ず存在します。それは五臓を纏(まと)う五つの経絡についてもまた然りなのです。
今回は、五行論における母子関係から展開された「経絡ネットワーク」について説明します。

◆「相生関係」とは
まずは「相生関係」を説明すると、時計回りの五行循環(木→火→土→金→水)において、上流側を「母」として、次の下流側の「子」を生じる(産む)関係として捉えます。

木生火(木は火を生じ)
火生土(火は土を生じ)
土生金(土は金を生じ)
金生水(金は水を生じ)
水生木(水は木を生じ)

そこで上図の五角形は、五行循環(木→火→土→金→水)に、陰の経絡(肝経→心包経→脾経→肺経→腎経)を当てはめたものです。5角形それぞれの1辺に着目すれば、上流側と下流側の関係がまるで母子関係のように位置づけられ、上流側を「母経」、下流側を「子経」と呼びます。

【母経】     【子経】
肝経(母)  → 心包経(子)
心包経(母)→ 脾経(子)
脾経(母)  → 肺経(子)
肺経(母)  → 腎経(子)
腎経(母)  → 肝経(子)

ここで大事なことは、【子経】を治療すべき当該経絡とした場合、【母経】の治療も同時に
加えるということです。

◆経絡間の母子関係
これら経絡における「母経」と「子経」の関係は、臓腑間の生理機能系として密接な関係があります。実際の臨床でも、それを裏付けるようなツボの反応を確認することができます。
ここで5つの経絡間の母子関係における生理機能系を、次のようにまとめてみました。

◎肝経を支える母なる腎経
古くは「肝腎同源」と呼ばれているように肝と腎は密接な関係があります。肝を中心に考えた場合、足がつるなどの筋肉疾患や、子宮筋腫などの婦人科疾患、目が疲れるなどの眼精疲労などは、共に「肝血」の病といいます。さらに「肝血」の生成元が、腎のなかの「腎精」とか「腎陰」になります。したがって、肝虚の場合は、肝血不足に陥らないように、母である(生成元の)腎も同時に治療する必要があります。

◎心包経を支える母なる肝経
心包虚の人は、寝つきがわるい、眠りが浅い、よく夢をみるなどの眠りの問題がからむことと、貧血や高血圧などの循環器系疾患になりやすい体質です。それらの背景には精神疲労に至るストレスを抱え込みやすいことがあります。ひどい人は背中の肩甲骨内側がどんよりしています。こうして心包虚の場合は、総じて「血虚」と「気のめぐりのわるさ」があるので、母である肝も同時に治療して、肝血を補い、肝気を促してめぐりをよくする必要があります。

◎脾経を支える母なる心包経
脾虚の人は胃腸が弱かったり、胃腸はよくても水はけがわるかったりして浮腫みやアレルギー症状を呈することが多いようです。また胃腸は情動に左右されやすいので、ストレスや精神疲労が誘引となる傾向があります。精神疲労に対しての安神(リラックス)を図るには心包経を補うことです。したがって脾虚の治療には母である心包も同時に治療する必要があります。

◎肺経を支える母なる脾経
肺虚の人は呼吸器系や皮膚が弱かったりします。それと対人関係いわゆる「気のキャッチボール」で疲れたりすると、息切れが生じやすくもなります。こうした症状はみな肺気がスムーズに流れないために起きる症状です。こうした肺虚の治療には、肺経のツボだけでなく、必ず気の生成元である脾経を補います。それは食養生で、風邪をひいたときに滋養のある食べ物をとることで肺を下支えする脾を健やかにするということも、実は同じ考え方です。

◎腎経を支える母なる肺経
喘息のときには腎経のツボに反応がよくでます。それは呼吸が肺だけでなく腎のはたらきも関与しているからです。腎は「納気」といって自然界から「気」をとりいれて丹田に納めるというはたらきがあります。腎は呼吸活動の一部を荷いながら、肺のサポートも必要とするのです。したがって、腎虚の場合は母である肺も同時に治療する必要があります。

◆配穴への応用
当該経絡の治療に母経の治療を加えることとは、具体的には「配穴(ツボの組み合わせ)」に展開されます。一般的には経絡の要穴を上手に組み合わせるのですが、流派によっていろいろの考え方があるようです。
ここでわたしが紹介するのは、背中の背兪穴の使い方です。

◎背兪穴における応用
肝虚の人     肝兪  +  腎兪
心包虚の人    厥陰兪 +  肝兪
脾虚の人     脾兪  +  厥陰兪
肺虚のひと    肺兪  +  脾兪
腎虚の人     腎兪  +  肺兪

このように、単純に母経の背兪穴を追加して合計4つのツボを使っています。(了)

第141話:「子午軸」と経絡ネットワーク(2/2)



◆「経絡」と「時間」を組み合わせる◆
上図は12本の「経絡」を、それぞれが関連する「時間」に配当した円環図で、これを「子午流注(しごるちゅう)」といいます。この場合の「時間」とは、1時(いっとき)を2時間とする「十二辰刻(じゅうにしんこく)」のことで、一番上の「子の刻」が午前0時の前後1時間、一番下の「午の刻」が正午の前後1時間となります。一方「経絡」は、肺経が「寅の刻」に始まり、後で説明する「流注(るちゅう)」の順番に沿って時計回りに順次めぐり、最後に肝経が「丑の刻」で終わります。

空間を表す「方位」も時間と同じように「十二支」によって12分割で表されるので、上の「子」は北、右の「卯」は東、下の「午」は南、左の「酉」は西となります。
このように自然界における空間と時間、さらに自然界の一部である身体(経絡)を含めて、「十二支」を介在することによって、大宇宙のなかでは互いに関連しあい循環していることを意味しています。
したがって、古来より重視されてきた「子午軸」とは、南北(上下)の「方位上の軸」だけとは限らず、ときには「時間上の軸(12時間差)」でもあり、さらには「経絡間の軸(対称軸)」としても重要視されるのです。

◆「流注」と時間医学
12本の「経絡」が時計回りに並ぶ「流注」とは、気血が流れる経絡ルートのことです。中焦に生じた気血が、初めは肺経からスタートして、各経絡を廻り、終わりを肝経とし、そしてまた肺経へ戻る。全体がまるで「メビウスの環」のような周回運動を繰り返し、気血は巡り巡って、昼に50回、夜に50回循環を繰り返すといわれています。

①肺経[始点]⇒②大腸経⇒③胃経⇒
⇒④脾経⇒⑤心経⇒⑥小腸経⇒
⇒⑦膀胱経⇒⑧腎経⇒⑨心包経⇒
⇒⑩三焦経⇒⑪胆経⇒⑫肝経[終点]

一般的に、経絡の「流注」と「十二辰刻」で表す「時間」とを結び付けたのが、鍼灸における「時間医学」の考え方になります。それぞれの経絡が旺盛になる固有の時間があるとする治療理論については、以前に説明しました。 ※参照記事:「第67話:鍼灸の時間医学」

◆子午軸は「180度の関係」
今回のテーマは、鍼灸における「子午軸」の重視です。ただこの場合に「子午軸」となるのは、[子の刻] に隆盛となる「胆経」と[午の刻] に隆盛となる「心経」の組み合わせになりますが、鍼灸の世界では、この組み合わせだけでなく、丁度180度の角度(時計でいえば12時間の開き)で相対している経絡同士を、すべて「子午軸」の関係として捉えます。したがって「子午軸」となる経絡同志は、次に示す6つの組み合わせになります。

⑪胆経 (足の陽経)⇔ ⑤心経 (手の陰経)
②大腸経(手の陽経)⇔ ⑧腎経 (足の陰経)
③胃経 (足の陽経)⇔ ⑨心包経(手の陰経)
⑥小腸経(手の陽経)⇔ ⑫肝経 (足の陰経)
⑦膀胱経(足の陽経)⇔ ①肺経 (手の陰経)
⑩三焦経(手の陽経)⇔ ④脾経 (足の陰経)

6つの組み合わせの特徴をあげれば、片方が「陽経」ならもう片方は「陰経」、そして片方が「足の経絡」ならもう片方は「手の経絡」という関係にあることです。
これら、いわゆる「子午軸」による経絡ネットワークは互いに絶妙な反応系を呈することから、臨床では次に説明する「子午鍼法」という取穴法に応用されます。

◆鍼法への応用「子午鍼法」について
経絡上の筋肉の痛みなどは、ほとんどが陽経上にでます。「急性の痛み」に対して「実している」と表現しますが、その陽経の実している患部を治療しようとすれば、患部と反対側の子午軸に当たる経絡上にツボを求めるのが「子午鍼法」です。ただしその場合、経絡上のツボは「絡穴(らっけつ)」を使います。「絡穴」とは経絡毎に定められたツボで、他の経絡と連携しやすいといわれるツボです。

《足陽経が実》⇒〔反対側の手陰経の絡穴〕
「胆 経」  ⇒(心 経)通里
「胃 経」  ⇒(心包経)内関
「膀胱経」  ⇒(肺 経)列缺

《手陽経が実》⇒〔反対側の足陰経の絡穴〕
「大腸経」  ⇒ (腎 経)大鐘
「小腸経」  ⇒ (肝 経)蠡溝
「三焦経」  ⇒ (脾 経)公孫

たとえば、急性腰痛(ぎっくり腰)の場合、左側の腰部が痛く、患部から判断して左膀胱経が明らかに実していたとします。その場合、反対側である右肺経の「列缺(れっけつ)」を取穴します。ちなみに正確に取穴する方法は、次のような手順を踏みます。
施術者は右手指で患部に触れ、手指を離さないままに軽くゆすり、同時に施術者の左手指のN指を、患者の右肺経の「列缺」あたりに軽く触れます。そのときに患部の緊張が最も弛むと感触を得たポイントが「列缺」の正しい位置です。それと同時に、患者さん自身も、「列缺」に触られた瞬間に、施術者の手指でゆすられた患部の痛みが軽減することを自覚してもらいます。こうした双方向性での確認診断は必須です。

他の例として五十肩で説明してみます。左の肩関節が痛みをともなって肩が上がらないという運動制限があったとします。そうした場合、最も痛みが顕著な当該経絡を触診と問診から探します。それは概ね手の陽経である「小腸経」、「三焦経」、「大腸経」のいずれかに該当します。それが小腸経であれば、反対側の右肝経の「蠡溝(れいこう)」、三焦経であれば、反対側の右脾経の「公孫(こうそん)」、大腸経であれば、反対側の右腎経の「大鐘(だいしょう)」を取穴します。取穴が正しいかどうかの確認診断は前に説明した通りです。なお、患部に筋肉萎縮がまだ認められない初期の五十肩であれば、当該絡穴を押圧することで、上がらなかった肩が少し上がることを確認できます。

◆不思議な力
このように「子午鍼法」とは、患部である当該経絡に取穴するのではなく、むしろ遠く離れた反対側の、当該経絡と子午軸に当たる経絡上に、しかもその「絡穴」に取穴するという鍼法です。
鍼灸の古典では、取穴法について「右の病は左で取る。左の病は右で取る」とか「上の病は下で取る。下の病は上で取る」というように、いわゆる「遠隔取穴」について種々言及されています。「子午鍼法」はそうしたひとつの方法といえるものです。

いずれにせよ、効果の程が驚くほどシャープであるという感触はいつも体感しています。
古代の先人たちが、「子午軸」を重視することに、不思議な力の内在を確信していたことは間違いないようです。(了)

第140話:「子午軸」と経絡ネットワーク(1/2)



◆「子午軸」の重視◆
ふる里の山、鳥海山と月山は地図で俯瞰するとぴったり南北の軸に位置し、それぞれが陰陽の山として対峙していることを前に紹介しました。 (第134話:「鳥海山」の神仏と陰陽」参照)
方角を十二支でたとえると、北は「子」の方角、南は「午」の方角となり、この南北軸を「子午軸」と呼びます。
この「子午軸」を特別なものとして捉える考え方は、中国の「陰陽五行説」を背景としながら、古代日本が律令国家をめざしていた頃の歴史のなかにも散見できます。
さらにいえば鍼灸の世界においても、この「子午軸」の重視は、重要な概念として既に成立していました。そこで今回のテーマは、「子午軸」の重視がどのように鍼灸の世界に反映されているのか、その背景にある「陰陽五行説」を踏まえながら説明していきます。

◆古代日本における「遷都」から
古代日本の7世紀から8世紀の歴史を振り返れば、天智天皇(大津京)、天武天皇(明日香京)および持統天皇(藤原京)、元明天皇(平城京)そして桓武天皇(長岡京と平安京)というように、短期間における度重なる遷都はすべて南北軸上、つまり「子午軸」に限って行われていました。

中国唐に倣った律令国家の成立は、近江の大津京から始まり京都の平安京で落ちつく中で、こうした度重なる遷都は総じて北へ北へとなされたという背景があります。このことを民俗学の吉野裕子(1916~2008)は、陰陽五行説における「北を太極とする思想」に依拠した「子(北)の重視」もしくは「子午軸(南北)の重視」 にあると指摘し、その思想をもたらしたのは、おそらく「白村江の戦い」の頃に亡命した百済からの学者たちであろうと推測しています。

◆「子午軸」に隠された意味
さらに吉野は「子午軸」を重視した理由について、子午を「方角」から「月」に宛て、次のように説明しています。

「子」の月は冬至を含む旧11月で、『易』によれば陰がきわまった後に一陽が萌す時で「一陽来復」の象。それに対して「午」の月は夏至を含む旧5月で、陽がきわまった後に一陰がはじめて萌す時。「子→午」は無から有への軌(みち)、「午→子」は有から無への軌を示す。万象はこの軌道に乗ることによって、はじめて輪廻転生の永遠性を保証される。

ちなみに十二の「月」を陰陽の消息で表すと、最も「陰」が極まった月が旧10月(亥の月)であり、最も「陽」が極まった月が旧4月(巳の月)となります。
「子」の月である旧11月は「一陽来復」の象で表せる吉祥の月であることから、皇室における重要な行事、たとえば「大嘗祭(だいじょうさい)」などは今でも旧11月に行われています。「子」の重視は今や皇室の中に残っているといえます。

また「北を太極とする思想」というのは、星座の中心である、動かない「北極星」を神格化することであり、道教の世界ではその神を「天皇」と呼称され、色は「紫」とされています。道教研究の第一人者である福永光司(1918~2001)によれば、日本の天皇という呼称が正式に使われたのは天武天皇からであり、その背景には「陰陽五行説」を含む「道教」の導入があると指摘しています。

いずれにせよ、「子午軸」が「無から有へ、もしくは有から無への軌(みち)を示す」というのは、陰陽の消息(成長と衰退)という位相変化をもたらす大事な「軸」と考えていたといえます。
次回は、その「子午軸」の重視が、鍼灸の世界にどのように反映されているかを説明します。


※吉野裕子『隠された神々・古代信仰と陰陽五行』河出文庫(2014年)