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第188話:心包/心包経を考える(2/2)



◆奇経の要素を併せ持つ心包経虚
この図は、杉山勲の『はり灸治療の手引』から採りあげたもので、経絡治療における病証論をチャートに表しています。図中の「陰虚証」「陽虚証」は中医学による「陰虚証」「陽虚証」とは全く意味が異なり、あくまでも経絡治療の概念によります。

そうした細かい解説は省略しますが、要は、ここで理解して頂きたいのは、「心包経虚」が他の臓腑・経絡とは別に、特異な存在であるということです。ちなみに右側中央にある「奇経」は、病が慢性域に到達すると、12経絡から溢れ出て、バイパスラインに流れた状態にあることを意味していますが、左側中央の「心包経虚」にも、この「奇経」と同じ状態になることがあると考えるのです。

ただし、わたしが考えている病証論と杉山勲による病証論との違いは、このチャートで示すと、「心包経虚」には二つのケースがあり、ひとつは「陰虚証」の中の一つとしての「心包経虚」、もうひとつは「陰虚証」から逸脱して、いわば奇経の要素を併せ持つ「心包経虚」(チャートでは左側中央の「心包経虚」)となります。

この奇経の要素を併せ持つ「心包経虚」を語る場合に欠かせないのは、感情との関係性、そして無意識との関係性です。これら順を追って説明します。

◆感情との関係性(該当する感情は「心配」と「不安」)
『黄帝内経・素問』では五臓に対して、それぞれに怒・喜・思・憂・恐の5つの「感情(情志)」を配当しています。ところが、「心包」が初めて登場した『黄帝内経・霊枢』においても、心包に配当する「情志」の記載はないままでした。

◇肝(怒)-心(喜)-脾(思)-肺(憂)-腎(恐)-心包(?)

後世の医家たちの間で、心包の感情について言及した形跡は、わたしの記憶では思い当たりません。それぞれの臓器に特定の感情をむすびつけるのは、『五行論』というオマジナイの世界だと誤解している方がいるとすれば、それは東洋医学の心理学的側面に目を向けないことだと理解しています。

これまで25年の臨床経験のなかで、「心包経虚」と診断できる幾多の患者さんを診てきました。さらには、オリジナルの診察法である「FMテスト」を使えば、患者さんの「感情」の在りようを凡そ観察できます。その経験値から分析すると、心包と密接に関連する「感情」は、たぶん「心配」と「不安」であろう!とするのが、わたしなりの結論です。

◆「心配」と「不安」の意味合い
では、先人は「心配」と「不安」という感情に、なぜスポットを当ててこなかったのでしょうか。それは、次のように考えます。
「心配」と「不安」という感情は、古代の人々にとっては直接的に関与することが少なかったとみてはいかがでしょうか。それよりも「怒り」とか「恐れ」もしくは「喜び」(というよりも、喜び過ぎて木に登るくらいの「狂喜!」)というような、起伏が激しくはっきりとした感情の方が、むしろ古代人の日常生活には十分関与していたのではと想像できます。ところが、人類の進化と成長、ないしは環境の安定化に伴い、別の意味としての感情が必要とされ、たとえば社会生活における疎外感とか不安感からくる感情の吐露として、新たに「心配」や「不安」という感情が生れたのではないでしょうか。そこにこそ、遅れて追加された「心包」という臓器と経絡の存在理由があるように思うのです。

◆カウンターウェイトとしての「心配」と「不安」
「心配」と「不安」という感情について、その表出の傾向を観察してみると、単独で表出することはもちろんありますが、むしろ「怒り」「イライラ」「落ち込み」「自責」などの強い感情や思いに寄り添うように出現する傾向にあります。これは、強い感情に対して、ややブレーキをかけて抑制にはたらくための感情だと理解できます。つまり、強い感情が暴走しないように、「心配」や「不安」がカウンターウェイト(重し)となってはたらいているからです。こうした感情の様子を交通整理した上で患者さんに伝えてあげるだけで、混沌とした気持ちが随分と落ち着いていくようです。

「心配」と「不安」という感情は、一見混沌とした感情の様相を作りだすかのように見えますが、かといって決してマイナスの感情だけではないということ。むしろ感情の世界にバランスをとろうとするはたらきが「心配」と「不安」という感情にあるとみます。

◆無意識との関係性
普段は「肝経虚」や「脾経虚」の方が、急に「心包経虚」に変化するときがあります。そのほとんどは、奇経の要素を併せ持つ「心包経虚」です。その様相としては、外からの強い念とか感情に動揺されて、気持ちの在りようが当に混乱をきたしている状態、いわゆる「人疲れ」が生じている状態です。だるいとか眠いなどの自覚症状がある場合と、ぼんやりとしながらも、はっきりとした自覚症状がない場合もあります。そんなときに、感情の在りようをみると、「心配」や「不安」に増して「怒り」「イライラ」「落ち込み」「自責」などのいずれかが、強い感情として現れ、まるでカウンターウェイトであるべき「心配」や「不安」がカバーしきれない様相にみえます。

概して「アンテナが敏感な人」のように、受信能力がより長けた人に多いようです。そして、決まって胸中央のツボ「檀中」と、背中のツボ「霊台」に反応がみられるのが特徴です。ここで「奇経の要素を併せ持つ」と形容したのは、通常の「陰虚証」から逸脱して、異なるフェーズ(位相)に移行したという意味です。異なるフェーズとは無意識レベルとしか言いようのない領域であり、表出する感情の根源は混沌(カオス)の無意識世界を由来とするものと考えています。無意識世界というと、何か特別な世界のようですが、誰にでも発現する可能性をもっています。

ここで「心包経」が無意識と関係があるとみるのは、心包経の募穴がツボ「檀中」であることが大いに関連があるとみています。乳房と乳房の中間に位置して、胸骨の窪みにあるツボ「檀中」は、本山博によれば、第4チャクラの「アナハタチャクラ(心臓のチャクラ)」に該当すると指摘しています。チャクラとは身体を離れた別次元への「扉」のような概念ですが、わたしにとってはそれが無意識世界への「扉」のように思えるのです。

◆まとめ
自説『心包経虚論』をまとめると、次のようになります。
⑴陰虚証としての「心包経虚」
◇病証:「気分障害」、「睡眠」、「循環器系」の症状を呈する。
◇基本治療穴:右の内関、左の中封
⑵奇経の要素を併せ持つ「心包経虚」
◇病証:気持ちの在りようが当に混乱をきたし、所謂「人疲れ」の状態。
◇基本治療穴:右の郄門(げきもん)、左の蠡溝(れいこう)

(完)

※文中の「檀中」の「檀」は正しくは「木へん」ではなく「肉づき」

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第187話:心包/心包経を考える(1/2)




◆後付けされた「心包」
落語や時代劇のなかで、よく「お酒は五臓六腑に染みわたるってもんさ~」と使われる、この「五臓六腑」は、東洋医学の「臓腑経絡システム」にかかれば、実は「心包(しんぽう)」という見えない臓器を加えて六対六の「六臓六腑」という構成になります。

【臓】肝―心-―脾―肺――腎――心包
【腑】胆―小腸―胃―大腸―膀胱―三焦

この「心包」が追加されたのは、後述しますが『黄帝内経・霊枢』の頃になるようです。そこで「五臓六腑」から「六臓六腑」に移行した意味は、ふたつ考えられます。ひとつは、肝と胆、心と小腸・・のように、それぞれを裏と表の関係で臓と腑が対応させるために、三焦に対して「心包」を置いたということ。もう一つの意味は、「五行論」を背景とする「五臓」から、たちまち「六臓」に展開することで合計12臓腑(経絡)となり、それらを自然界の時空に反映する十二支、十二辰刻、方位などに対応させることによって、人の身体を「大自然=大宇宙」と照応する「小宇宙」、もうひとつの「自然」に見立てたということです。

となると、後付けされた「心包」は、単に数合わせの目的で誕生した臓器なのか?という疑問が当然あがります。しかし、「心包」は臓腑のなかでは、最も特異な存在といっても言い過ぎではないと捉えています。
そこで今回のテーマは、「心包」にスポットをあて、「心包」がなぜ特異な存在なのか、これまでの臨床経験を踏まえながら、わたしなりの見解をまとめてみました。

◆「心包」についての淵源
中国は馬王堆で発見された帛書(絹布に書かれた文書)である『陰陽十一脈灸経』や『足臂十一灸経』を調べてみても「心包」の記載はまだありません。当時(紀元前1世紀頃?)は厥陰経という概念はありましたが、直接「心包」という臓腑経絡の存在はなかったようです。続いて中国医学のバイブルとされる『黄帝内経』の時代になると、生理学書である『黄帝内経・素問』では、馬王堆帛書と同じように、まだ「心包」の記載はなし。ところが、鍼灸医学書である『黄帝内経・霊枢』になると、「経脈篇第十」のなかで初めて「心包」が言及されます。つまり同じ『黄帝内経』とはいえ、『素問』では「五臓六腑」、『霊枢』では「六臓六腑」の違いがあったのです。

◆「経脈篇第十」からみた「心包」の立ち位置
では、「心包」にはじめて言及した『黄帝内経・霊枢』の「経脈篇第十」を読み解いてみます。まず注目するのが、心包が他の臓腑と異なる表現で説明がなされている点でしょう。他の臓腑が(心を例にすれば)、「心手少陰之脉」(心は手の少陰の脈)と記載があるのになぜか、心包だけは「心主手厥陰心包絡之脉」(手の厥陰心包絡の脈を心は司る)とあります。これは「心包は心の臓器に付属し他の臓腑と連絡する脈である」と解釈でき、「心」が本丸とすれば、「心包」はその外堀という位置づけになります。

さらに、心と心包の関係は、それぞれの病症にも差異があります。同じく「経脈篇第十」では、病症を「是動病」と呼ぶ「経絡病」(病位は浅い)と、「所生病」と呼ぶ「臓腑病」(病位は深い)の2つに分けています。心と心包について、それぞれ2つの病症を比べてみると、以下に示す訳文(小曽戸丈夫訳)にあるように、明らかに「心包」の病症の方が重症であることがわかります。それは、本丸の心の臓器が直接侵襲される前に、まずは外堀部分の「心包」が盾となって受け止めるからだと解釈できます。
それと、心の「君火」に対して、心包は「相火」と呼ばれますが、熱性(火性)の症状は、ほとんどがこの「心包」の変動と考えて差し支えないのです。
したがって、日本の経絡治療において「心経虚」がないのは、心虚と心包虚をまとめて「心包経虚」で代表させる根拠にもなっていると考えられます。

【是動病(経絡病)】
<心 経>:のどがカラカラになり、心臓が痛み、のどが渇いて水を欲しがる。これは臂厥であって手が冷える。
<心包経>:掌が熱し、腕と肘がひきつれ、腋の下が腫れて酷いときは胸や脇がおしあげられたようにつかえ、心臓の動悸が激しくなる。顔は赤くなり目は黄ばみ、しばしば馬鹿悪いが止まらない。
【所生病(臓腑病)】
<心 経>:目が黄色になり、胸痛があり、腕の内縁の本経脈走行上が痛んで冷え、掌は熱をもって痛む。
<心包経>:心臓がもだえて痛み、掌が熱くなる。

◆心包経虚は「気分障害」と「睡眠」と「循環器系」
次に心包経の病証論は、流注に関係します。心包経の流注を整理すると、胸中に起り、心包をめぐってから下って三焦にからみます。その枝は胸から腋窩に出て、上肢の内面中央をめぐって掌中に入り、中指尖端の橈側で終わります。
なかでも、胸中の「心」の周辺から三焦へと絡むということは、「心包経」は他の五臓六腑に繋がって、血脈の循環ばかりか情志の変動も影響を与える関係にあるということです。現代中医学が謂うところの、心気虚・心血虚・心陰虚の病証が、経絡治療では「心包経虚」がそれを請け負うことで、心煩などの気分障害、不眠・途中覚醒・浅眠・多夢などの睡眠の症状、そして心臓疾患・高血圧・貧血などの循環器系の症状が呈しやすいということ。逆にいえば、「心包経虚」の方の養生すべきポイントは、気分と睡眠と循環器系になります。

ここまでの内容は、教科書の内容からそれほど逸脱していない内容かと思います。次回は、心包について、後世新たに分かってきたことを自説を絡めて論じます。(つづく)



第145話:「六角形」の経絡ネットワーク(2/2)



◆三つの「台形」◆
六角形の経絡ネットワークについては、4つの経絡で結ばれた【台形】が3個、120°の角度で放射状に配置している見方をすることを前回説明しました。分かりやすくするために、【台形A】【台形B】【台形C】を色分けしたのが上の図です。

 【台形A】:①肺経[太陰]⇒②大腸経[陽明]⇒
       ⇒③胃経[陽明]⇒④脾経[太陰]
 【台形B】:⑤心経[少陰]⇒⑥小腸経[太陽]⇒
       ⇒⑦膀胱経[太陽]⇒⑧腎経[少陰]
 【台形C】:⑨心包経[厥陰]⇒⑩三焦経[少陽]⇒
       ⇒⑪胆経[少陽]⇒⑫肝経[厥陰]

◆経絡的治療の「配穴法」
経絡的治療の基本則は「陰主陽従」でした。陰経絡を中心に診断と治療を進め、陽経絡は従属的な治療対象とします。5つの陰経絡のなかで、最も気の流れが弱いところを以て「陰虚証」とし、それが患者の体質を表します。具体的には「肺虚」、「脾虚」、「腎虚」、「心包虚」、「肝虚」の5つが基本証となります。

これらの「陰虚証」の配穴法(ツボの取り方)は、上記の該当する【台形】に示す経絡と、その母となる経絡からツボを選びます。それは、当該陰経絡の流注において最も密接な関係性をもった【台形】に着目して、その中での陰陽のバランスをとるという考えに依拠しています。
ちなみに「肺虚」と「心包虚」の2証であれば、母となる経絡は同じ【台形】の中にありますが、他の3証では隣接した【台形】にあります。

 ◎配穴法の着目点
  「肺虚」 ⇒【台形A】+母:脾経(同太陰)
  「脾虚」 ⇒【台形A】+母:心包経(対角)
  「腎虚」 ⇒【台形B】+母:肺経(対角)
  「心包虚」⇒【台形C】+母:肝経(同厥陰)
  「肝虚」 ⇒【台形C】+母:腎経(対角の同少陰)

具体的な配穴は次のようになります。但しこれは、わたし流のやり方です。あくまでも経絡的治療におけるひとつの配穴法として捉えてください。尚、留意すべき点は次の3点です。

(a) 陰経絡は2つまで:主経絡と母経絡の2つまでとします。陰経絡を3つ以上使ってしまうと、焦点が希薄になり、本来の経絡的治療の目的から逸脱してしまいます。
(b) 絡穴を使う:ツボは「絡穴」を多用します。「絡穴」は「三陰三陽」や「表裏」などの関係を通して、他の経絡へ連絡しやすい性質があるからです。
(c) 陰経絡の要穴は左右片側を使う:左右両側の2穴を使うよりも、経験的に、片側1穴を使う方が明らかに効き目に違いがあります。

 ◎経絡的治療の基本配穴
  「肺虚」 ⇒ r列缺(肺)+r公孫(脾)+合谷(大)+足三里(胃)
  「脾虚」 ⇒ r公孫(脾)+r内関(包)+合谷(大)+足三里(胃)
  「腎虚」 ⇒ w照海(腎)+r列缺(肺)+腕骨(小)+飛陽(膀)
  「心包虚」⇒ r内関(包)+l中封(肝)+外関(三)+陽陵泉(胆)
  「肝虚」 ⇒ l中封(肝)+r照海(腎)+外関(三)+陽陵泉(胆)
   ※陰経絡のツボは片側。r:右側 l:左側 w:男は左側、女は右側
   ※陽経絡のツボは左右を使用。(大)大腸経、(小)小腸経、(三)三焦経

以上の基本配穴による治療は、経絡的治療の「全体治療」であり「本治法(ほんちほう)」と呼ばれるものです。

◆陽経絡の反応傾向
一方、陽経絡を中心に治療する「部分治療」は「標治法(ひょうちほう)」と呼ばれます。
陽経絡のツボを「標治法」として使う場合は症状に応じて使います。ところが、症状に応じて反応している陽経絡のツボであっても、結局それは「経絡ネットワーク」枠内にある経絡にあることが多いようです。あくまでも経験的な感触ですが、主経絡に応じて決まった陽経絡上に症状が生じやすい傾向にあるといえるのです。
たとえば、頸肩こりで例を挙げれば、「肺虚」の人は子午軸の関係である「膀胱経」の頸こり、「脾虚」の人は子午軸の関係である「三焦経」の肩こり、さらに「腎虚」の人は「太陽」系の「小腸経」や「膀胱経」の頸肩こり、「心包虚」や「肝虚」の人は「少陽」系の「三焦経」や「胆経」の肩こりが多い―という具合です。

◆陽経絡のツボの選び方
陽経絡上の症状に対してどのようにツボを選ぶかは、次の3つの方法があります。
五十肩の治療を例にして、それぞれのツボの取り方の違いを説明します。そのなかで一番効果のあるツボを選定します。

(a) 循経取穴でツボを選ぶ:痛いところの部位がどこの経絡かを判別し、その経絡上の手や足にある要穴にツボを求めます。たとえば左五十肩の場合、肩関節の「臂臑(ひじゅ)」(大腸経のツボ)の痛みをとるのに、同側の左肘外側にある大腸経のツボ「曲池(きょくち)」を使うなどです。
(b) 同一「三陽」経絡上の絡穴を選ぶ:たとえば手の陽明系の痛みとるのに、足の陽明系のツボを使うこと。先の左五十肩の場合であれば、肩関節の「臂臑(ひじゅ)」(大腸経のツボ)の痛みをとるのに、同側の左下腿外側にある胃経のツボ「豊隆(ほうりゅう)」や「条口(じょうこう)」を使うなどです。
(c) 子午軸の経絡上の絡穴を選ぶ:第143話で説明した「子午鍼法」のこと。先の左五十肩の場合、肩関節の「臂臑(ひじゅ)」(大腸経のツボ)の痛みをとるのに、反対側の右足の内くるぶしにある腎経のツボ「大鍾(だいしょう)」を使うなどです。

これらのツボの触診法は次の通りです。
施術者は右手指で患部に触れ、手指を離さないままに軽くゆすり、同時に施術者の左手指のN指を当該ツボ付近に軽く触れます。そのときに患部の緊張が最も弛むと感触を得たポイントがツボの正しい位置です。それと同時に、患者さん自身も、ツボに触られた瞬間に、施術者の手指でゆすられた患部の痛みが軽減することを自覚してもらいます。3つのツボで、こうした双方向性での確認診断をすることで、一番効果のあるツボを決めます。

◆まとめ
鍼灸治療は、痛い処にツボを求めて鍼灸を施しても、もちろん一定の効果はあります。ところが、より効果的に発揮させるには、実は手とか足の離れたツボを使うことです。そのほうが患部を改善するに留まらず、明らかに身体全体に効果が及ぶのです。ただし、そうした事実を経験的に知り得た先人たちは、わたしたちに統一した回答として細かく提示してきたとは限りません。
むしろ東洋医学とは-患者さんそれぞれが固有のストーリー(病歴)を抱える、あくまでも「個の医療」として扱うべきもの-と強調されてきました。
したがって、「個の医療」であるからこそ、より細かな四診を通し、経絡やツボの声を直に訊くことが求められます。治療家の役割は、患者さんの経絡やツボと対峙して、身体の声を聴くことです。その診断根拠となる概念のひとつが、この「経絡ネットワーク」であると言えるわけです。(了)

第144話:「六角形」の経絡ネットワーク(1/2)



◆「十二角形」の「円環図」◆
第141話で紹介した「子午流注」の円環図は、12本の経絡を「十二辰刻」に合わせたものでした。これは円環というよりむしろ「十二角形」といってもよいものです。
そこに規則性があるとすれば、「手の経絡」と「足の経絡」が「手⇒手⇒足⇒足⇒・・・」、
また「陰経絡」と「陽経絡」が「⇒陽⇒陽⇒⇒・・・」という順番で並んでいること。さらには180度で向き合う経絡同志が「子午軸」と呼ぶ特別な関係にあるということでした。

 ①肺経[手]⇒②大腸経[手]⇒③胃経[足]⇒④脾経[足]⇒
 ⑤心経[手]⇒⑥小腸経[手]⇒⑦膀胱経[足]⇒⑧腎経[足]⇒
 ⑨心包経[手]⇒⑩三焦経[手]⇒⑪胆経[足]⇒⑫肝経[足]⇒

◆「十二角形」から「六角形」へ
この「十二角形」を、試しに陰経絡を内側の「六角形」にし、同時に陽経絡を外側の「六角形」になるように並び替えてみたのが上の図です。少し見づらいかもしれませんが、青い矢印に沿って①肺経から⑫肝経と流注は続いています。

この「六角形」に作り替えてみたのはもう10年前のこと。ちょっとした試みが、実は意外な発見をもたらします。「子午流注」を2重の「六角形」にしただけで、たとえば陰陽の位相を表す「三陰三陽」とか、臓腑間の「表裏」が、実にシステマティックに配列されていることにまずは驚かされます。それと最も大事な要点としては、経絡間の関係性、所謂「経絡ネットワーク」の全貌が、この「六角形」を通すとはっきりと見えてくるのです。
そこで今回は、この「六角形」が意味する「経絡ネットワーク」の全貌と臨床でどう活用するのかを紹介してみます。

◆「六角形」の3つの【台形】
この六角形は、見方をかえると4つの経絡で結ばれた【台形】が3個、120°の角度で放射状に配置しているように見えます。これらの【台形】を流注の順番から、仮に【台形A】【台形B】【台形C】とします。

 【台形A】:①肺経[太陰]⇒②大腸経[陽明]⇒
  ⇒③胃経[陽明]⇒④脾経[太陰]
 【台形B】:⑤心経[少陰]⇒⑥小腸経[太陽]⇒
  ⇒⑦膀胱経[太陽]⇒⑧腎経[少陰]
 【台形C】:⑨心包経[厥陰]⇒⑩三焦経[少陽]⇒
  ⇒⑪胆経[少陽]⇒⑫肝経[厥陰]

これらの【台形】は共通した要素で構成されています。上辺(短辺)の両端は陰経絡の同一「三陰」同志が並び、そして下辺(長辺)の両端は陽経絡の同一「三陽」同志が並んでいます。さらに上下端は、陰経絡と陽経絡がちょうど表裏の関係になっています。さらに流注の特徴としては、陰経絡同志は直接繋がらず、ふたつの陽経絡を間に挟んで間接的に繋がっているということです。

たとえばこれを【台形A】を使って説明すると、上辺両端は「肺経」と「脾経」で、共に陰経絡の「太陰」に属します。そして下辺両端は「大腸経」と「胃経」で、共に陽経絡の「陽明」に属します。さらに上下端の、「肺経」⇔「大腸経」と「脾経」⇔「胃経」は表裏の関係になります。さらに流注の特徴としては、「肺経」と「脾経」は直接繋がってはおらず、「大腸経」と「胃経」の陽経絡を間に挟んで間接的に繋がっています。

◆対角線上の関係
次に、六角形の対角線に注目すれば、「肺経」⇔「腎経」、「脾経」⇔「心包経」、「心経」⇔「肝経」の3つの組み合わせがありますが、不思議なことに、この対角同志の「経絡」間には次のような特徴があります。

(a) 2組の対角に「母子」の関係あり
 肺経 (母)⇔ 腎経(子)
 心包経(母)⇔ 脾経(子)
(b) 2組の対角には「奇経」の関係あり
 内関(心包経)陰維脈 ⇔ 公孫(脾経)陰蹻脈
 列缺(肺経) 任脈  ⇔ 照海(腎経)衝脈
(c) すべての対角には「子午軸」が隠されている
 「肺経」の「子午軸」は、対角の「腎経」の裏である「膀胱経」
 「脾経」の「子午軸」は、対角の「心包経」の裏である「三焦経」
 「心経」の「子午軸」は、対角の「肝経」の裏である「胆経」
 「腎経」の「子午軸」は、対角の「肺経」の裏である「大腸経」
 「心包経」の「子午軸」は、対角の「脾経」の裏である「胃経」
 「肝経」の「子午軸」は、対角の「心経」の裏である「小腸経」

以上が「六角形」が意味する「経絡ネットワーク」の全貌です。これらを臨床でどう生かすかは次回説明します。(つづく)


※「三陰三陽」について
「三陰」には太陰・少陰・厥陰があり、「三陽」には陽明・太陽・少陽がある。これらは陰陽の位相変化を表している。これらに足の経絡と手の経絡が次のように配当される。
◎「三陰」の陰経絡    
  太陰:①肺経[手]+④脾経[足]  
  少陰:⑤心経[手]+⑧腎経[足]  
  厥陰:⑨心包経[手]+⑫肝経[足] 
◎「三陽」の陽経絡
  陽明:②大腸経[手]+③胃経[足]
  太陽:⑥小腸経[手]+⑦膀胱経[足])
  少陽:⑩三焦経[手]+⑪胆経[足]

※「表裏」について
臓は陰で裏、腑は陽で表として、臓腑間には表裏の関係が次のようにある。
  ①肺経[裏]⇔②大腸経[表]
  ④脾経[裏]⇔③胃経[表]
  ⑤心経[裏]⇔⑥小腸経[表]
  ⑧腎経[裏]⇔⑦膀胱経[表]
  ⑨心包経[裏]⇔⑩三焦経[表]
  ⑫肝経[裏]⇔⑪胆経[表]

※「奇経」について
病症が慢性域に入ると、反応する経絡がバイパスラインに移行する。
そのバイパスにあたる特殊な経絡を「奇経」8脈という。
病症に応じて奇経2脈(合計4組)の組み合わせで2穴治療ができる。
  陰維脈:内関(心包経)⇔ 陰蹻脈:公孫(脾経)
  任脈:列缺(肺経)  ⇔ 衝脈:照海(腎経)
  陽維脈:外関(三焦経)⇔ 帯脈:臨泣(胆経)
  督脈:後谿(小腸経) ⇔ 陽蹻脈:申脈(膀胱経)

第143話:「五角形」の経絡ネットワーク



◆五行論における母子関係◆
子供にかける愛情においては、母親に敵わないことは誰しもが認めるところ。母親は「子供のためなら命を賭しても」と口にしても「夫のためなら・・」とはまず言いません。
この母なる力の存在は、東洋医学では五行論における「相生(そうせい)関係」に見出せます。五臓のそれぞれには、母なる力を発揮して下支えしようとする他の臓器が必ず存在します。それは五臓を纏(まと)う五つの経絡についてもまた然りなのです。
今回は、五行論における母子関係から展開された「経絡ネットワーク」について説明します。

◆「相生関係」とは
まずは「相生関係」を説明すると、時計回りの五行循環(木→火→土→金→水)において、上流側を「母」として、次の下流側の「子」を生じる(産む)関係として捉えます。

木生火(木は火を生じ)
火生土(火は土を生じ)
土生金(土は金を生じ)
金生水(金は水を生じ)
水生木(水は木を生じ)

そこで上図の五角形は、五行循環(木→火→土→金→水)に、陰の経絡(肝経→心包経→脾経→肺経→腎経)を当てはめたものです。5角形それぞれの1辺に着目すれば、上流側と下流側の関係がまるで母子関係のように位置づけられ、上流側を「母経」、下流側を「子経」と呼びます。

【母経】     【子経】
肝経(母)  → 心包経(子)
心包経(母)→ 脾経(子)
脾経(母)  → 肺経(子)
肺経(母)  → 腎経(子)
腎経(母)  → 肝経(子)

ここで大事なことは、【子経】を治療すべき当該経絡とした場合、【母経】の治療も同時に
加えるということです。

◆経絡間の母子関係
これら経絡における「母経」と「子経」の関係は、臓腑間の生理機能系として密接な関係があります。実際の臨床でも、それを裏付けるようなツボの反応を確認することができます。
ここで5つの経絡間の母子関係における生理機能系を、次のようにまとめてみました。

◎肝経を支える母なる腎経
古くは「肝腎同源」と呼ばれているように肝と腎は密接な関係があります。肝を中心に考えた場合、足がつるなどの筋肉疾患や、子宮筋腫などの婦人科疾患、目が疲れるなどの眼精疲労などは、共に「肝血」の病といいます。さらに「肝血」の生成元が、腎のなかの「腎精」とか「腎陰」になります。したがって、肝虚の場合は、肝血不足に陥らないように、母である(生成元の)腎も同時に治療する必要があります。

◎心包経を支える母なる肝経
心包虚の人は、寝つきがわるい、眠りが浅い、よく夢をみるなどの眠りの問題がからむことと、貧血や高血圧などの循環器系疾患になりやすい体質です。それらの背景には精神疲労に至るストレスを抱え込みやすいことがあります。ひどい人は背中の肩甲骨内側がどんよりしています。こうして心包虚の場合は、総じて「血虚」と「気のめぐりのわるさ」があるので、母である肝も同時に治療して、肝血を補い、肝気を促してめぐりをよくする必要があります。

◎脾経を支える母なる心包経
脾虚の人は胃腸が弱かったり、胃腸はよくても水はけがわるかったりして浮腫みやアレルギー症状を呈することが多いようです。また胃腸は情動に左右されやすいので、ストレスや精神疲労が誘引となる傾向があります。精神疲労に対しての安神(リラックス)を図るには心包経を補うことです。したがって脾虚の治療には母である心包も同時に治療する必要があります。

◎肺経を支える母なる脾経
肺虚の人は呼吸器系や皮膚が弱かったりします。それと対人関係いわゆる「気のキャッチボール」で疲れたりすると、息切れが生じやすくもなります。こうした症状はみな肺気がスムーズに流れないために起きる症状です。こうした肺虚の治療には、肺経のツボだけでなく、必ず気の生成元である脾経を補います。それは食養生で、風邪をひいたときに滋養のある食べ物をとることで肺を下支えする脾を健やかにするということも、実は同じ考え方です。

◎腎経を支える母なる肺経
喘息のときには腎経のツボに反応がよくでます。それは呼吸が肺だけでなく腎のはたらきも関与しているからです。腎は「納気」といって自然界から「気」をとりいれて丹田に納めるというはたらきがあります。腎は呼吸活動の一部を荷いながら、肺のサポートも必要とするのです。したがって、腎虚の場合は母である肺も同時に治療する必要があります。

◆配穴への応用
当該経絡の治療に母経の治療を加えることとは、具体的には「配穴(ツボの組み合わせ)」に展開されます。一般的には経絡の要穴を上手に組み合わせるのですが、流派によっていろいろの考え方があるようです。
ここでわたしが紹介するのは、背中の背兪穴の使い方です。

◎背兪穴における応用
肝虚の人     肝兪  +  腎兪
心包虚の人    厥陰兪 +  肝兪
脾虚の人     脾兪  +  厥陰兪
肺虚のひと    肺兪  +  脾兪
腎虚の人     腎兪  +  肺兪

このように、単純に母経の背兪穴を追加して合計4つのツボを使っています。(了)