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第167話:患部の近位取穴法(頸痛編)



◆はじめに
今回は「頸痛」治療についての「患部の近位取穴法」を紹介します。
まずは上の写真をみてください。「頸が痛くて動かせない」という患者さんに坐位の状態で頸を動かしてもらい、そこで痛いと訴える部位を「運動痛点」とします。「運動痛点」の位置は凡そ2つのケースがあるようです。ひとつは緑色のシールを貼った①の部位(横突起の位置)にあるケースで、もうひとつは②の部位(肩甲骨内縁)にあるケースと診ています。もちろん、①も②も患側は左右どちらのケースでもあります。

「運動痛点」が①と②の部位になぜ限定されるかといえば、(詳細は後述しますが)頸部の筋肉における解剖学的な理由にあるとみています。①と②のいずれの場合でも、頸痛の局所治療においては、「運動痛点」の緊張がストンと弛んで痛みが軽減する「治療点」をFMテストでわり出します。わり出した「治療点」に鍼灸を施すことで、頸部の関連筋肉は弛んで痛みが軽減し、傾いていた頸椎の歪みも是正できます。

では、「頸痛」治療における「患部の近位取穴法」の流れを、「頸痛」の解剖学的なメカニズムと留意点を交えて順次説明していきます。

◆「頸痛」は筋肉のスパズム
朝起きたら「頸が痛くて回らない」という「寝違い」は、「頸痛」の代表的症状といえます。いつもと違った姿勢で寝たことに加え、普段からの蓄積疲労と、運動不足もしくは加齢による筋肉の柔軟さの衰え、または寒さもしくは冷房による冷気など、それらのいずれかが誘因となって、頸の関連筋肉が急激にスパズム(こわばり)を起こした状態をいいます。
他にも、たとえば観劇や講演会などで長時間にかけて斜め前方に頚を向けても同様の症状が起きます。普段の生活動作と逸脱した姿勢(頸の角度)を長時間続けたことが原因で、「寝違い」と同じように頸の関連筋肉が疲労してスパズムを起こすのです。

◆「頸痛」のメカニズム
こうして頸の関連筋肉にスパズムが起きると、痛みを伴って運動制限を呈します。制限される運動とは、主に「回旋(頸を回す)」と「側屈(頸を左右に倒す)」と「伸展(頸を後ろに倒す)」などです。言い変えれば、「頸痛」のメカニズムとは、これらの運動に関わる筋肉がスパズムを起こすことにあります。
したがって「回旋」「側屈」「伸展」などの働きを担う頸部の筋肉を解剖学からわり出すと、頭板状筋、頸板状筋、頸腸肋筋、肩甲挙筋などがその関連筋肉であることが分かってきます。

発症時にひとつの筋肉にスパズムが起きると、周辺の筋肉にまでドミノ式に波及し、結果的に複数の筋肉までもがスパズムを起こしてしまいます。スパズムを起こしている筋肉が複数であればあるほど「頸痛」は重症といえます。逆に治療によって周辺の筋肉のスパズムが順次弛んでゆくと、最終的には大本である当該筋肉が残っていくという経過を辿るようです。

◆「起始/停止の部位」に着目
次に解剖学的なメカニズムについて説明します。
上述の頭板状筋、頸板状筋、頸腸肋筋、肩甲挙筋についての詳細(図解)は、それぞれ解剖学書で確認してください。ここで大事なことは、関連筋肉それぞれの「起始/停止の部位」に着目することです。

◎頭板状筋(とうばんじょうきん)
(起始)下位5頸椎の項靭帯、上位2胸椎の棘突起に付着。
(停止)側頭骨の乳様突起と後頭骨の上項線の外側部に付着。
(働き)頭部の伸展、回旋、側屈。
◎頸板状筋(けいばんじょうきん)
(起始)T3~T6(ないしはT5)までの棘突起もしくは項靭帯に付着。
(停止)C1~C2の横突起後結節に付着。
(働き)上位頸椎を外方・側方に引く。頭部を回旋、側屈、伸展。
◎頸腸肋筋(けいちょうろっきん)
(起始)第1~6の肋骨の肋骨角に付着。
(停止)C4~C6の横突起に付着。
(働き)頸椎の側屈、伸展。
◎肩甲挙筋(けんこうきょきん)
(起始)C1~C4の横突起に付着。
(停止)肩甲骨の上角、内側縁の上部1/3に付着。
(働き)肩甲骨を上に上げる。

「起始/停止の部位」に着目する理由はほかでもありません。回旋なり伸展なりの運動の際に痛いと訴える「運動痛点」と、その痛みを弛めてくれる周辺の「治療点」は、共に「起始/停止の部位」のポイントに凡そ符合するからです。それは「患部の近位取穴法」を通して経験的に分かったことです。つまり、「運動痛点」と「治療点」は解剖学用語でいう処の「横突起」「肩甲骨の上角」「棘突起もしくは項靭帯」「肋骨角」のいずれかに該当しています。さらに言えば、それらは以下に示す近傍のツボに置き換えられるのです。

「横突起」⇒「天柱(膀胱経)」と「完骨(胆経)」を結ぶライン中央の「阿是穴」
「肋骨角」⇒ 膀胱経2行線上の「魄戸」もしくは「膏肓」
「棘突起もしくは項靭帯」⇒ 頸椎もしくは胸椎の「夾脊穴」
「肩甲骨の上角」⇒「肩外兪(小腸経)」

筋肉のスパズムを弛めるには、当該筋肉の両端付着部である「起始/停止の部位」辺りに「治療点」が存在することは確かに頷けることです。そのことは「N指」で頸部のどこに触るかという勘所の根拠にもなるということです。
では次に「患部の近位取穴法」の手順を説明します。

◆①のケースによる「患部の近位取穴法」


坐位の状態で、頸の回旋もしくは伸展の際に痛いと訴える「運動痛点」が右側の①の部位だとします。そこは「横突起」が回旋変位を起こしている処で、触ると圧痛を伴う硬結が認められます。そこに印をしておきます。
次に、患部を上になるように側臥位になってもらいます。印をつけた「運動痛点」を右の手指で軽く揺すりながら、左中指(N指)を周辺部位にスライドさせて、右の手指で触っている「運動痛点」の緊張がストンと弛んで痛みが軽減するポイント=「治療点」をわり出します。すると白いシールを貼った辺りに3か所の「治療点」が特定できます。そこに印をつけておきます。ちなみに頸胸椎に近い2か所は(華佗)夾脊穴、もうひとつは「肩甲骨の上角」に近い肩外兪(けんがいゆ)穴の位置にあります。

◆②のケースによる「患部の近位取穴法」


坐位の状態で、頸の回旋もしくは伸展の際に痛いと訴える「運動痛点」が左側の②の部位だとします。そこは「肩甲骨内縁」にある魄戸(はくと)穴もしくは膏肓(こうこう)穴に該当する処で、触ると圧痛を伴う硬結が認められます。そこに印をつけておきます。解剖学的には「肋骨角」と呼ばれ、たぶん頸腸肋筋が付着する部位だと思われます。
次に、患部を上になるように側臥位になります。印をつけた「運動痛点」を右の手指で軽く揺すりながら、左中指(N指)を周辺部位にスライドさせて、右の手指で触っている「運動痛点」の緊張がストンと弛んで痛みが軽減するポイント=「治療点」をわり出します。すると白いシールを貼った辺りに3か所の「治療点」が特定できます。そこに印をつけておきます。ちなみに頸胸椎に近い2か所は(華佗)夾脊穴、もうひとつは「横突起」外端に当たる阿是穴(あぜけつ)の位置にあります。

◆施灸と確認診断
「運動痛点」と「患部の近位取穴法」で求めた「治療点」の全てに5~7壮のお灸(透熱灸)をお勧めします。それは関連した筋肉の「起始/停止の部位」すべてを対象にしたほうが効果的であると考えています。それと鍼ではなくお灸にするのは、深刺しすると危険な部位も含まれるからです。

施灸をした後は、「運動痛点」を再び揺すってみて痛くなくなったか患者さんに確認します。患者さんに「痛いですか?」「痛くなくなりましたか?」と必ず前後に確認することです。
痛みが軽減したことを確認した後は、坐位の姿勢になってもらい、頸を動かして可動域が改善しているか、頸椎の傾きなどの歪みが改善しているかを確認します。
頸痛はスパズムを起こしている筋肉が複数であるほど、または筋肉の柔軟性が衰えているほど、完治までに少し時間がかかります。もし運動痛点の痛みや頸椎の歪みが少し残っていたとしたら、次回の治療にまわし、だいたいの予後を伝えて初回の治療を終了します。(了)

※肩甲挙筋について
肩甲挙筋は「肩甲骨を上げる」働きとする唯一異色の筋肉になるが、この筋肉がスパズムを起こすと、頸椎の横突起がひっぱられ、頸椎が回旋変位(Heaving)を呈してしまうことから、「頸痛」の関連筋肉に該当するとした。
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第166話:患部の近位取穴法(腰痛編)

◆「患部の近位取穴法」のおさらい
第103話「患部の近位取穴法」では「腱鞘炎」を例にして、オリジナルの「FMテスト」を使った取穴法を紹介しました。運動器疾患が対象ですから、この場合の「患部」とは痛い処の筋肉部位になります。その患部の緊張を弛めて痛みを軽減してくれるツボを、その周辺に求める方法が「患部の近位取穴法」でした。

やり方をおさらいすると、痛い患部を右の手指で軽く揺すりながら、左中指(N指)を周辺部位にスライドさせて、右の手指で触っている患部の緊張がストンと弛んで痛みが軽減するポイント=「ツボ」をわり出す方法です。ここで大事なことは、患部の痛みを軽減することができる「ツボ」は必ず患部の周辺(近位)に存在すること。そして患部の筋肉に訊(き)けば、ちゃんと「ツボ」の所在を教えてくれるということです。

◆腰痛における「局所治療」
そこで今回は2回目として「腰痛」を取り上げてみます。
腰痛には「急性のギックリ腰」や「慢性の腰痛」、さらに下肢の放散痛やしびれを伴う「坐骨神経痛」などがあります。いずれの場合においても治療の前提とするのは、腰臀部の痛み及び骨盤や背骨の歪みをとるためのツボをわり出すことです。そのための活用法である「患部の近位取穴法」について順を追って説明していきます。

ちなみに、わたしの腰痛治療は、まずは患者さんを仰臥位のままに、手足の要穴を使った(経絡を調える)「全体治療」を施します。それによって腰臀部の痛みはある程度の改善はできます。全体治療を施すことで、関連した臓腑経絡の気の流れが調い、痛みを抱えたストレスを和らげることで心身の安寧が得られます。

ただし、筋肉に対する効果を観察すれば、それは表層の筋肉の改善だけに限定されるか、もしくは効果が深層の筋肉までに及ぶには時間がかかるという感触をもっています。したがって、深層の筋肉や靭帯レベルまでの緊張を瞬時に弛めようとするには、どうしても腰臀部への「局所治療」が不可欠となるのです。

わたしの腰痛治療の手順は、まず先に仰臥位で「全体治療」を施した後に、腰臀部の痛い処を上にする側臥位に変え、腰臀部への「局所治療」を加えています。つまり、側臥位での「局所治療」で、深層の筋肉や靭帯レベルの緊張を弛めるべきツボを「患部の近位取穴法」を使ってわり出すわけです。治療穴として見出されるツボは、腰臀部周辺に3穴もしくは4穴必ず存在することが経験的に分かっています。これらのツボを使って的確に治療を施せば、深層の筋肉や靭帯レベルの緊張と痛みを弛めると同時に、歪んだ骨盤や背骨を正常の位置に戻すという手応えが確実に得られます。

◆側臥位での「患部の近位取穴法」
では具体的に手順を説明します。まずは痛い患部が右側なのか左側なのかを診断します。真ん中が痛いとするときでも、精査すると痛みには必ず左右差があり、より痛い方を治療側にします。この場合、左右を特定する方法はいろいろありますが、たとえば膀胱経の「至陰(しいん)」穴や「金門(きんもん)」穴の圧痛について左右差を確認すれば、より痛い方が(膀胱経の実として)治療側と分かります。
左右が確認できたら、痛い方を上にした側臥位になってもらいます。

次に触診して痛い処を特定します。わたしの経験では必ず、⑴仙腸関節部か、⑵腸骨稜上部(ツボでいうと志室下か腸骨点内側)のどちらかが顕著な圧痛を呈しているものです。実際に手指で触って少しゆすってみて患者さんにどちらが痛いかを確認し、患部を特定します。その患部に印をつけておきます。

◎患部が「⑴仙腸関節部」のとき:【写真A】
その痛い患部(矢印の処)を右の手指で軽く揺すりながら、左中指(N指)を周辺部位にスライドさせて、右の手指で触っている患部の緊張がストンと弛んで痛みが軽減するポイント=「ツボ」をわり出します。すると白いシールを貼った辺りに4か所の「ツボ(反応穴)」が特定できます。そこに印をつけておきます。ちなみに腰椎に近い2か所は(華佗)夾脊穴に近い位置にあります。

【写真A】

◎患部が「⑵腸骨稜上部」のとき:【写真B】
⑴仙腸関節部と同様に「ツボ」をわり出すと、白いシールを貼った辺りに3か所の「ツボ(反応穴)」が特定できます。そこに印をつけておきます。ちなみに腰椎に近い3か所は(華佗)夾脊穴に近い位置にあります。

【写真B】

◆鍼灸を施す
以上の「患部の近位取穴法」で求めた「ツボ」に刺鍼もしくは施灸を施します。鍼であれば、やや深めに刺鍼してから「得気(とっき)」といって「鍼の響き」を加えます。響きがあったほうがシャープに効いて、「患部」が弛むのがはっきりわかります。鍼を深く刺すのが苦手だと訴える患者さんにはお灸(透熱灸)を施します。お灸の場合でも下肢の先にまで響く場合があります。お灸の方がむしろ患者さんに緊張を与えることなく安定した効果が得られるかもしれません。

◆確認診断
「患部の近位取穴法」で求めた「ツボ」に刺鍼もしくは施灸をした後は、患部を再び揺すってみて痛くなくなったか患者さんに確認します。もし「変わらない」と言われた場合は、取穴からやり直すべきです。正確に取穴する要点は、自分の感触だけで判断しないで、患者さんに「痛いですか?」「痛くなくなりましたか?」と必ず前後に確認することです。また正確にツボの位置を確認するには、左中指(N指)に加えテイ鍼を使ってみて、ミリ単位で位置を特定することも大事なことです。

患部の痛みが軽減したことを患者さんと共に確認した後は、患者さんに床に立ってもらいます。患者さんの感覚として、腰の張りや違和感が軽減しているかどうかを確認します。それから患者さんの背部を観察して、治療前に確認していた骨盤や背骨の歪みが是正されているか確認します。

もし患者さんが「患側はよくなったけど反対側がまだ違和感がある」と言う場合は、反対側を上にして側臥位で同じように「患部の近位取穴法」を使い治療します。骨盤の左右バランスが特に大きいケースは両側を治療しています。

なお、骨盤変位には3軸変位(Heaving,Rolling,Pitching)がありますが、治療後の変化を正確に判定するためにも、治療前の観察ではどれに該当しているかを十分に把握しておくことです。高齢者の慢性腰痛のように長い間によって骨盤の変形が固定化してしまったケースを除けば、一般的な急性腰痛であれば、治療によって骨盤の歪みは是正されます。

急性腰痛が治療後にすっきり改善したと喜ばれる多くのケースは、深層の筋肉や靭帯レベルの緊張と痛みを弛めることで、骨盤や背骨の歪みが是正していることに尽きると考えています。「患部の近位取穴法」を使った治療は、そうした目的に有効な手立てになると認識しています。(了)

※指の極性とは
第46話:「磁石」と「指の極性」による触診技術 を参照
※「FMテスト」とは
さまざまの身体情報を受信するための診断法。道具を一切使わず、施術者の手指(Finger)と被検者の腕橈骨筋(Muscle)だけを使うのが特長。
第88~91話:筋肉をつかう診断法「FMテスト」を参照


第103話:患部の近位取穴法

◆ツボは筋肉にたずねる
先に紹介したオリジナルの「FMテスト」は、さまざまの身体情報を受信するための診断法で、道具を一切使わず、施術者の手指(Finger)と被検者の腕橈骨筋(Muscle)だけを使うのが最大の特長でした。もういちど説明すると、「FMテスト」ができることは大きく分けて以下の2つがありました。
【1】主要診断(経絡診断、気のありよう、情志のありようなどを診る)
【2】経穴診断(治療すべきツボを探し、正確な位置までを決める)
    ※参照記事⇒ 第88話:筋肉をつかう診断法「FMテスト」(1/4)
    ※参照記事⇒ 第89話:筋肉をつかう診断法「FMテスト」(2/4)
    ※参照記事⇒ 第90話:筋肉をつかう診断法「FMテスト」(3/4)
    ※参照記事⇒ 第91話:筋肉をつかう診断法「FMテスト」(4/4)

さて今回紹介するのは「患部の近位取穴法」です。これは「FMテスト」の【2】経穴診断と同じように、筋肉を利用した取穴法(ツボを探す方法)ですが、違うのは「FMテスト」が腕橈骨筋を使うところ、今回の「患部の近位取穴法」では直接患部の筋肉を使う点です。さらに、対象となるのは整形外科系統の運動器疾患です。たとえば、腰痛であれば痛みを軽減するツボを腰部に求める方法であり、膝痛であれば痛みを軽減するツボを膝の周辺に求めることをいいます。

やり方の概要は、痛い患部を右の手指で軽く揺すりながら、左中指(N指)を周辺にスライドさせて、右の手指で触っている患部の緊張がストンと弛んで痛みが軽減するポイント=「ツボ」を探すという方法です。つまり患部の痛みを軽減できる「ツボ」は、必ず患部の周辺(近位)に存在すること。そしてその「ツボ」の所在は患部の筋肉にたずねると、ちゃんと応えてくれるのです。それが「患部の近位取穴法」の特長です。


【写真A】

◆取穴法の実際:ばね指(弾発指)の場合
では実際のやり方を「ばね指」を使って説明しましょう。【写真A】は中指(第3指)が「ばね指」と想定しています。中指を曲げて(屈曲)から伸ばそう(伸展)とすると、ひっかかりが生じ、場合によっては痛みが伴います。腱が腱鞘(けんしょう)という鞘(さや)の中をスムーズに動ないことが原因です。結果、赤いシールを貼っているip関節と呼ばれる部位が腫れて、軽く押すと痛みを感じます。この赤いシールを貼った部位を「患部」とし、「患部」の痛みを改善できるツボを、この「患部の近位取穴法」によって探し出すのですが、青いシールを貼った部位がその「ツボ」に当たります。
   (※以後、赤いシール=「患部」、青いシール=「ツボ」を表します。)


【写真B】

ばね指のツボを探す方法が【写真B】です。右手指で「患部」を軽く揺すりながら、左中指(N指)を前腕周辺にスライドさせ、右の手指で触っている患部の緊張がストンと弛んで痛みが軽減する「ツボ」を探します。この場合の前腕周辺とは、屈筋腱の延長にある総指屈筋(そうしくっきん)です。反応点を現す「ツボ」は、やや陥下して硬くなっているのが特徴です。ここで大事なことは、施術者が「患部」の緊張が弛む感覚を右の手指で確認できたとしても、患者さんにとって「患部」の痛みが軽減していなければ、それは正しい「ツボ」ではないということ。「このツボをこうやって触ると痛いところが軽くなりますか?」と必ず確認します。このように、感覚的な変化を施術者と患者さんが共有することは、正確な取穴をすすめる上では最も大切なことになります。

◆治療上の留意点
以上の「患部の近位取穴法」で求めた「ツボ」に鍼灸を施します。鍼であれば、やや深めに刺鍼してから「得気(とっき)」といって「鍼の響き」を加えた方がシャープに効いて、「患部」が弛むのがはっきりわかります。ただし鍼を深く刺すのが苦手だと訴える患者さんにはお灸(透熱灸)を施します。お灸でも同様の結果が得られます。

「患部」について治療をすべきかですが、「ツボ」に鍼灸を施すことで「患部」の痛みが軽減しているのであれば、原則「患部」への治療はいらないことになります。ましてや「患部」がもし炎症がつよくて腫れや熱感がある場合は、むしろ「患部」への治療は避けるべきです。いずれにしても、「患部」に直接鍼灸を施すことよりも、「患部」の周辺に反応している「ツボ」を探してそこに鍼灸を施した方が、よく効くのは経験的にも明らかなことです。

◆「患部の近位取穴法」の留意点
ツボをどこに探るかという勘所は、まさしく施術者の知識と経験から自然と生み出されるものです。筋性疾患という運動疾患から考えれば、ツボは関連する筋肉上に探すわけですし、また東洋医学の観点からみれば、ツボは「経絡(けいらく)」とか「経筋(けいきん)」上に自ずと求めるものです。知識と経験を絶えず蓄積しておくことは、診断技術にとっては大いなる財産になるものと思っています。

この取穴法で、ツボが簡単に取れそうに思うかもしれませんが、実際のところ触診技術がある程度の水準にないと、うまくツボは取れないものです。患者さんの体表を触るなかで、緊張の度合いや硬結の有り無しなど、微妙な変化を指頭感覚で捉えられるようになるには、普段から大勢の患者さんの体表を触るという経験をとにかく積むしかないのです。いわゆる「治療家の手」を作る努力は普段から惜しまないことです。

尚、今回は「ばね指」を例にして「患部の近位取穴法」を説明しました。他の部位における運動器疾患については、これと同様に運用できます。それらは細かいところでの留意点を含めて、まとまったところで追々紹介していこうと思っています。

第91話:筋肉をつかう診断法「FMテスト」(4/4)

~経穴図やチェックシートを使う~

◆「意念」の限界
センサーである左手指(第3指)を直接ツボなどに触れなくても、「意念」を使えば左手指をかざすだけで「触ったつもり」として同等の応答反応を得られます。但し、「意念」というのは一定の意識を持続しなければなりません。調べる項目が多いとそうそう持続はできないもの。しかも複数の患者さんを連続で診るときは、前の患者さんの応答反応を引きずりやすく、次の患者さんの診断に影響がでてしまいます。ですから「意念」を使う「FMテスト」は極力少なくしました。(「経絡診断」のみに使用。)
そうした問題を補い安定した方法へと考えたのが、今回紹介する経穴図やチェックシートを使うやり方です。

◆経穴図を使う

                   【写真D】

上の【写真D】をみて下さい。患者さんの左傍らにあるのはA5版の経穴図。センサーである左手指(第3指)を直接ツボに触るところを、経穴図上のツボを触ります。図を使うことで「意念」を維持できることから、いわば「準意念的」なやり方といえます。先に説明したように、左中指(第3指)と左人差し指(第2指)の、それぞれ「N指」と「S指」を使い分けることで、ツボが「虚」なのか「実」なのかを判別できます。たとえば、「膀胱実」の急性腰痛(ぎっくり腰)において、腰部の「関元兪」が「実」しているとした場合、その遠位の足のツボである「崑崙」とか「金門」などが同じく「実」していることが、経穴図上のそれらのツボに「S指」で触ることで「適(Yes)」反応を以て確認できます。

◆チェックシートを使う
次に、経穴図から発展して、診断内容をまとめたA5版のチェックシートを使うやり方です。複数の診断項目が書かれた文字に、センサーである左手指(第3指)を触れて応答反応を比較しながら診ます。このやり方は、以下に示す「気のありよう」と「情志のありよう」の診断に使っています。尚、診断で浮かび上がった「気の流れ」と「感情」の様子は、さらに経絡や臓腑との関連と合わせて分析していきます。

①気のありよう」を診る
幸田露伴が『努力論』で説く「気を張る」を中心とした「気のありよう」の診断。
(『第62話:露伴が説く「気を張る」こと』を参照)
     「気が散る」「気が凝る」「気が張る」        
     「気が逸る」「気が亢る」「気が弛む」 

②「情志のありよう」を診る
  《七情に対する診断》:古典にみる7種類の感情を診断       
     「怒りの感情」「悲しみの感情」「思いすぎ・考えすぎ」
     「恐れの感情」「喜びすぎの感情」「驚きのショック」「憂いの感情」 

  《詳細な感情の種類》:さらに細かく分析するために用意した項目
     「心配・不安症」 「悲しみ・悲観」 「怒り・怒りっぽい」
     「孤独で寂しい」 「苛立ち・いらいら」「恨み・妬み」
     「不信感・猜疑心」「否定的考え」 「ひがみ」    
     「うつ・落ち込み」「自己陶酔」 「自己攻撃・自己破壊」  

◆結び
鍼灸医学の魅力を世に紹介した人物として、忘れてはならないのが医師の間中喜雄(1911~1989年)の存在です。専門学校時代に読んだ『体の中の原始信号』は、特に影響を受けた本でした。その中に―わたしたちの身体には、音、色、形、磁石などが発するごくわずかな信号に対して、しっかり反応する回路をもっている―と説いています。現代科学では説明できないこの不可解な回路を、間中は「X-信号系」と名付けていました。

「鍼灸」も微細な刺激の信号として身体に入力されるという点では、音、色、形、磁石と全く同じこと。また「FMテスト」で使うセンサーの左手指(第3指)が触る「ツボ」や「漢字」などから入力する情報は、同じく微細な刺激の信号であることを実感しています。間中が提唱したこの「X-信号系」を考えることは、身体がもつ未知なる可能性を論ずるだけではなく、とりもなおさず鍼灸の可能性にまで波及する期待があります。

オリジナルの診断法「FMテスト」を初めてもう20年近くになろうとしていますが、結局考え方の原点は間中喜雄の『体の中の原始信号』にあると思っています。日常の鍼灸治療を通して「身体がもつ未知なる可能性」に触れながら、「FMテスト」を身体の声と会話ができる―ひとつの診断技術へと、さらに磨いていきたいと考えています。   (完)

第90話:筋肉をつかう診断法「FMテスト」(3/4)

~意念を使う~

◆「部分」と「全体」に介在する「気」
伝統的「脈診法」とは、手首の橈骨動脈に手指を触れて、そこから伝わる脈の「形状」「浮沈」「遅速」などから健康状態を察する診断法です。動脈拍動部という身体の「部分」から身体「全体」を窺うというプロセスは、『華厳経』が説く「一即多 多即一」(部分に全体の宇宙が投影している)というホロニックな世界観に通じます。さらに進めて、東アジア科学史の山田慶兒(京大名誉教授)は、「部分」と「全体」が意味的連関をもって感応するのは、そこに「気」が介在するからこそ成り立つと説いています。

「FMテスト」も、筋肉という「部分」から身体「全体」を窺う診断法です。検者(施術者)と被検者(患者)の間において、「気」を介在とする感応がうまくはたらくには、相互に信頼関係があるのはもちろんのこと、検者(施術者)側には、確固たる目的意識をもった「意念」をはたらかせることが有効です。というのも、「意念」とか「想念」がはたらいている意識下では、「気」はより動きやすい性質があるからです。
そこで今回のテーマは、「FMテスト」に「意念」を活用する応用編です。

◆意念を使った「FMテスト」
たとえば【写真A】のケースでいえば、センサーである左手指(第3指)を「脾虚」の患者さんの右足にある脾経のツボ「太白」を触るところを、触らないで左手指(第3指)をそこに向けてかざすのです。そこではあくまでも「触ったつもり」と「意念」をはたらかせることがコツです。すると、左手指をかざしたとしても、直接触ったときと同じように、テスターである右手指3本(第2~4指)による触診では、硬結が「ストン」と弛んでしまう「適(Yes)」の応答を体感できます。

このように手指をかざすやり方をマスターすると、触りにくい遠くのツボでも容易に診断ができます。たとえば伏臥位(うつぶせ)にならないと触診できない背中や腰のツボでも、仰臥位(あおむけ)のままでも、「触ったつもり」という「意念」をはたらかせることで、容易にツボの反応をチェックできるようになります。

ちなみに、アンテナのかなり敏感な患者さんの場合は、一緒にツボの反応を共有できます。たとえばAさんは、治療中に気の流れを実況中継してくれる不思議な方ですが、それだけでなく、私が「FMテスト」で応答反応を感じている、ある特定のツボに指をかざすと、Aさんにもシュルシュルと風のようなものを、そのツボの部分に感じます。まさに双方向性に反応を共有できる患者さんが存在するのです。(『第51話:霊性の高いひと』参照)


                  【写真C】

次に、上の【写真C】に示す「FMテスト」による「経絡診断」のやり方を説明します。
「経絡治療」というのはまず、患者さんの「体質」を見分けるのが先決になっています。その体質とは、陰経の6つの経絡の内、どれがいちばん気を不足がち(「虚証」という)であるかを診断します。ただしそのうちの「心経の虚」は「心包経の虚」で代表されると考えて、便宜上「肝虚」「心包虚」「脾虚」「肺虚」「腎虚」の5つで分類します。この陰経の5つの「虚証」が、そのまま5つの「体質」分類を表します。(『第79話:「経絡」を診る(2/2)』を参照)

    5つの体質=「肝虚」「心包虚」「脾虚」「肺虚」「腎虚」

わたしの左手指(第3指)は、上から下へ移動しながら「肺・心包・心・肝・脾・腎」と順番に意識下で唱えながら、右手指3本(第2~4指)で患者さんの腕橈骨筋(の硬結)を順次「グリッ・グリッ」と触診して、「ストン」と弛む「適(Yes)」の応答があるところを探します。たとえば「肝」と唱えたときに「ストン」と弛む「適(Yes)」の応答があれば「肝虚」と診断されるわけです。この「肺・心包・心・・」の順番は、臓腑経絡と密接な関係にある背中の背兪穴の並びに準拠しています。

   胸椎03/04間 = 肺兪  (肺経)
   胸椎04/05間 = 厥陰兪 (心包経)
   胸椎05/06間 = 心兪  (心経)
   胸椎09/10間 = 肝兪  (肝経)
   胸椎11/12間 = 脾兪  (脾経)
   腰椎02/03間 = 腎兪  (腎経)  ※( )内は関連経絡を示す。

細かく言えば、かざしている左手指(第3指)の先は、背中の背兪穴に「触ったつもり」になって、順次下へ指をスライドさせ、「肺虚ですか?心包虚ですか?・・」と尋ねてゆく気持ちで「意念」をはたらかせて応答反応を診ることが肝要です。

こうした「意念」を使った「FMテスト」は、施術者の体調によっては思い込みが発生しやすいことがあります。その短所を補う対策としては、他の診断法と組み合わせて2重にチェックすることは先に述べた通りです。       (つづく)
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