第110話:足三里の養生灸



◆養生灸のススメ
最近中高年の女性向け「ツボ講座全4回シリーズ」の講師を担当しています。鍼灸治療のツボや経絡についての基礎知識から、家庭で気軽にできる「養生灸」の実技まで一通り教えています。使用するお灸は市販の簡便灸(商品名『せんねん灸』)です。家庭での「養生灸」では特に「足三里(あしさんり)」に毎日お灸することを勧めています。ちなみにわたしの治療では、どんな患者さんにでも必ず鍼を施すツボが「足三里」です。それだけ「足三里」は大切なツボとしてみています。
そこで今回は、ツボの中で最も有名なこの「足三里」のお灸が、なぜ養生によいのかについて改めて紹介してみます。

◆「胃の気」を高める足三里
足三里というツボは「胃の気を高める」といって胃腸のはたらきを健やかにする効果があります。足三里は胃経のツボですが、胃経は五行でいうと「土」です。また胃腸はお腹の真ん中にあるので「中(中焦)」に当たります。従って「胃腸のはたらきを健やかにする」ことを「補う」の字を使って「補土(ほど)」とか「補中(ほちゅう)」と表現します。ちなみに専門的になりますが「健脾(けんひ)」「健脾胃(けんひい)」という言い方も同じ意味になります。

高温多湿の気候風土で暮らす日本人は胃腸のよわい人が多く、甘いものを摂りすぎると身体の水はけをわるくし、アレルギーやリウマチになりやすくなるといわれています。ですから日本は古来より、中国金元時代の「補土派」の考え方を引用して「胃腸を調えることがすべての健康法に繋がる」という考え方が養生法の根幹になっているケースが多く、その代表的なものが漢方薬なら「補中益気湯」、そしてツボ療法なら「足三里」となるのです。さらに体質改善という意味合いからは、足三里は毎日継続して施灸することがより効果を発揮するといえます。

◆「土用」に足三里
旧暦では季節を5つに分ける考え方があり、春夏秋冬の四季に土用が加わります。たとえば「春」であれば立春から春の土用の入り前日までの72日間で、その後「春の土用」が18日間と続きます。この「土用」は季節と季節の間にある18日間で4つあるので合計72日。つまり旧暦では1年が360日、それを5分割した72日を春夏秋冬と土用に配当しているのです。

春(72日)→春の土用(18日)→夏(72日)→夏の土用(18日)
      →秋(72日)→秋の土用(18日)→冬(72日)→冬の土用(18日)→


こうした季節のリズムのなかで、土用は今の季節から次の季節への橋渡しをする時期。実はこの土用の時期に、経絡の中では「胃経」がもっとも旺盛になるとされています。ですから江戸時代に「土用の灸」といって足三里にお灸をすることを奨励したのは、「胃の気」を高めることで季節の変化に身体が混乱しないように、身体を調える意味合いがあったようです。

四季にメリハリがないと身体は混乱します。今年でいえば暑い夏がいつまでも続き中々秋が来ないという状態が当にそうです。これを「不及(ふきゅう)」と呼びます。逆にひとつの季節が短く終わって次の季節に早く移行してしまう状態を「大過(たいか)」と呼びます。季節の変化が「不及」もしくは「大過」という異常を呈すると、自然界と照応している人間の身体は、同じように「不及」もしくは「大過」の状態に引きずられて混乱するのです。

「不及」=天候の変化が暦の変化よりも遅れがちに現れる現象
「大過」=天候の変化が暦の変化よりも早く現れる現象

そこで「足三里」にお灸をして「胃の気」を高めると、その混乱を鎮めてくれます。しかも「夏の土用」に「鰻」を食するのは「夏の土用」に限定した養生法ですが、足三里のお灸はすべての「土用」に適応した養生法になるということです。

◆「免疫力」を高める足三里
福岡県の原志免太郎(はら・しめたろう)(1882~1991)は104歳まで現役の医師として診療にあたり、当時「男性長寿日本一」として108歳で天寿を全うした人物です。九州帝国大学医学部時代には、お灸の研究に取り組み、結核に感染したウサギにお灸をすえると抵抗力が増すことをつきとめ博士号を取っています。自らも毎日足三里(と腰部八点)にお灸をすることを日課にしました。原博士はついに108歳で天寿を全うしたことで、足三里の養生灸が免疫力を高め長寿に繋がることを、当に身を以て証明したといえます。
もちろん現代の安保徹理論でいけば、毎日継続的に足三里に施灸することは、身体が副交感神経優位に傾き、リンパ球の数が顆粒球の数よりも増大し、結果免疫力が向上するという説明もできます。

以上のように、足三里の養生灸には、胃の気を高め、季節の変化に身体を調え、免疫力を高める効果があることを分かっていただけたかと思います。
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