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第119話:「経絡」の通り道(本山博の研究から)



◆経絡の通路は「真皮」にあり
本山博の研究によれば「経絡」の正体は皮膚の「真皮」にある-ことを以前に紹介しました。(「第84話:経絡の正体(本山博の研究)」を参照)
表皮の下にある「真皮」は厚さ1mmにも満たない層。その中を覗くと細胞はまばらで、弾力性のある結合組織が網目状に形成して、その間隙(すきま)に「水(体液)」が流れています。そのスポンジ状になった中に、ナトリウム、カリウム、カルシウムといったいろいろな養分がイオンの形で含まれて、各細胞に運ばれ、細胞膜を通して新陳代謝が行われているわけです。

皮膚の「真皮」、そして臓器や一つ一つの細胞を繋ぐ繊維状の「結合組織」は、共に発生学的に「中胚葉」を由来としています。故に、気の流れる所、経絡のある所というのは、中胚葉由来の真皮層内の結合組織が形成するトンネル内にあるわけです。全身をめぐるその水の流れこそが「経絡」の正体であり、流れる水の中には「気のエネルギー」が物理科学的な成分という形ではたらいていることを本山は科学的に証明したのです。

◆大事な結合組織
ここでその「結合組織」に着目してみます。
真皮層内にある網目状の結合組織とは主にコラーゲン線維(膠原線維)という蛋白質であり、その間々に保水力の強いヒアルロン酸や、粘性に富むコンドロイチン硫酸などのムコ多糖類が結合し、皮膚の張りと潤いを保っています。女性ホルモンが減少するとコラーゲンの生成に影響を与え、皮膚のたるみやシワができやすくなるので、美容のためにはコラーゲンが豊富な食材(手羽先、鶏皮、フカヒレ、牛筋など)を摂りましょうとなるわけです。

また皮膚以外のたとえば関節部位では、結合組織の中にコンドロイチン硫酸がたくさん溜まっており、関節腔の中にはヒアルロン酸が滑液中に含まれて、それらが一種の潤滑油のような役割をしています。加齢とともに膝痛や神経痛で悩むのは、こうしたムコ多糖類の生成が不足した、いわゆる油切れの状態がひとつの原因です。油が切れて結合組織が硬くなれば、そこの水の流れが悪くなり、乳酸とか尿酸という化合物が生じて神経や筋肉を刺激して痛みを生じます。よく耳にする(世田谷生まれの?)グルコサミンとはこれらコンドロイチン硫酸とヒアルロン酸の主原料となるものです。

◆「結合組織」と経絡の関係
このように「結合組織」が美容や関節痛にとって大切であることは周知の事実ですが、さらに着目すべきは、「結合組織」の状態が経絡内の気の流れにも関わっていること。というのも、「水(体液)」に含まれる様々のイオンは、その起電力に応じた電位勾配を形成して、それによってたえず「水」の流れが生じます。ところが加齢によりヒアルロン酸などが不足し結合組織がだんだん硬化をしてくると、ヒアルロン酸とかナトリウムとか水の量というのは非常に相関関係があるために、電位勾配に変化が生じて水の流れが悪くなる、つまりそのことは結合組織内を流れる「気のエネルギー」が非常に悪くなってしまうことなのです。

◆関節部が大事な理由
人間の身体は水の流れがスムーズに流れることで健康を保ち、水の流れがうまく流れないと病気になります。先人はその「水」の流れの通路を「経絡」と名付け、そこにはたらく原動力を「気のエネルギー」として捉えたのです。さらに水の通路を形成している結合組織の状態次第で水の流れが左右されることから、結合組織が多く集中している関節部が特に流れが滞りやすく、新陳代謝の行われない水が関節部に溜まりやすくなります。

そのことは、経絡においても、関節部は気の流れが滞りやすい「関所」のような部位であることを意味していますが、驚くことに、先人はそのことをすでに認識していました。
例えば足首、膝、手首、肘の関節周りには、「原穴」とか「合穴」と呼ばれる重要なツボが集中しています。鍼灸の治療で使うツボの多くは、これら関節部周辺の「原穴」とか「合穴」に集中することからも、確かにそれは頷けることです。
中国鍼灸医学の古典の『黄帝内経霊枢』の「九鍼十二原篇」によれば、
「十二原は四関より出ず。四関は五臓を主治す。」とあります。
「十二原」は12経絡の原穴のことで、「四関」は手首、足首のことです。この左右4つの関節にあるツボ(「原穴」)は五臓の病気をも治す重要なツボであるというのです。

以上のように、気のめぐりをよくし、健康を保つのに役立つ養生法としては、よく関節を動かす運動をすることであり、関節周りのツボに鍼や灸で適量な刺激を与えることがとても大切ということです。

※本山博『気・瞑想・ヨーガの健康学』名著刊行会(平成6年)
※本山博『密教ヨーガ』宗教心理出版(昭和53年)
関節の運動として「経絡体操」を提唱。ヨーガのアーサナ(姿勢法)を取り入れ。
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第118話:「谷根千」と岡田虎二郎



◆「谷根千」の散策
最近「東京の右半分」にスポットがあたっているそうですが、わたしにとっての「東京の右半分」といえば、森まゆみが世に知らしめた「谷根千」と呼ぶ谷中・根津・千駄木の地域です。東京に出てもう42年、つねに「東京の左半分」に居住の中心を置いていたのでついぞ「谷根千」には縁のないまま過ごしてきましたが、最近になってようやく千代田線「千駄木」の駅を起点にして、半日のぶらり散歩をするようになりました。

先日は千駄木から日暮里までを散策。千駄木駅前の団子坂下から三崎坂に入って山岡鉄舟と三遊亭円朝のお墓がある「全生庵」。北西に路地へ入って「岡倉天心記念公園」。そして右に折れ蛍坂の近道を通れば4年もの修復工事を終えたばかりの「朝倉彫塑館」にたどり着きます。そこでゆっくり滞在したあと、左手に「本行寺」をみながら日暮里駅までの道程をぶらり散策しました。

◆「岡田式静坐法」の聖地「本行寺」
写真はその日暮里駅西口にある「本行寺」。日蓮宗の長久山「本行寺」は江戸時代に建立された寺で通称「月見寺」。戊辰戦争では彰義隊が寺に逃げ込んだことがあり、今でも正門には官軍が打った弾痕が残っています。あまり紹介されることのないこの寺が、実は今回の本題に関連しています。

この寺は明治から大正にかけての一時期、知識人を中心に燎原の火のように広がった「岡田式静坐法」の道場として使われた場所なのです。それは岡田虎二郎(1872~1920)が考案した静坐健康法。毎朝6時に開会し、参加者は本堂に二百名ほどが集まるほどにいつも盛況を呈し、全国には2万人もの静坐法の弟子が存在するまでになっていたとか。虎二郎の信望者には、東伏見宮などの皇族に始まり、華族、財界人から学者、学生まで幅広く、著名人では徳川慶喜、渋沢栄一、中里介山、坪内逍遥、島村抱月、相馬黒光なども静坐会に参加していました。

◆岡田虎二郎の死
虎二郎は謎に包まれた人物で、幼少のころは貧困と虚弱のため小学校しか出ていないにもかかわらず、持ち前の努力と練磨によって農事研究家として活躍し、一時期は単身渡米したこともあり、果ては対象を農作物から人間の健康法にシフトして「静坐法」を確立した稀有で不思議ともいえる人物なのです。
ところが大正9年10月17日、これだけのカリスマ的な存在だった虎二郎が急逝します。過労と腎臓病が原因だったとか。じっさい彼は生涯、一日平均3~4時間しか睡眠をとらなかったそうで、本行寺の他に多くの道場を奔走し指導に当たっていたために過労がたたったと思われます。ともあれ享年48。50歳にも満たなかったカリスマの死は、多くの信望者にショックを与えます。健康法として静坐会に参加した多くの著名人たちは、主宰者の早世にその効力を疑い、あっけなく会を離れるのもそれは当然の成り行きでした。
岡田虎二郎の死後、静坐会の存在も次第に過去の出来事として忘れ去られようとします。が、その根は絶えることなく、各地で静坐会のグループは小規模ながらも活動を続けたそうです。

◆「岡田式静坐法」の復権
なかでも虎二郎の弟子に柳田誠二郎(1893~1993)という人物がいます。日本銀行副総裁や初代日本航空社長を歴任した実業家ですが、100歳で亡くなるまでの80年間もの間、「岡田式静坐法」をまさに日々の健康法として実践された方です。しかも虎二郎の言行録を基に『岡田式静坐のすすめ』という解説書を遺されています。
生前の虎二郎は文章を一切遺さず、日記も死後焼却を頼んだほどでした。それだけに柳田が遺した解説書は貴重であり、虎二郎の早世により効力まで疑われた静坐法の復権を、享年100として当に身を以て証明したことが、なににもまして見事というほかはないのです。

森まゆみの『明治東京畸人傳』により「谷根千」と岡田虎二郎の関わりを知り、さらに柳田誠二郎の『岡田式静坐のすすめ』によって虎二郎の人となりと静坐法の神髄を知ることができます。考えてみれば、東洋の中では日本人が特に「座る」という生活文化を長い歴史のなかで根差してきたわけです。それだけに、かつて燎原の火のように広がった「岡田式静坐法」には、きっと現代の日本人が忘れかけている養生法のヒントが、大いに隠されているような気がしてならないのです。

※森まゆみ『明治東京畸人傳』新潮文庫(平成11年)
※柳田誠二郎『岡田式静坐のすすめ』地湧社(1983年)
※「岡田式静坐法」の大略
一、足の土踏まずを深く重ねて正坐する。膝の間は軽くあけ、尻を突き出す。
すると、自然に腹が出てやや前傾する。
二、肩の力を抜き、背骨は立て、鳩尾(みぞおち)を落とす。
三、眼は閉じ、吸う息は意識せず丹田の一点に力を入れて少しずつ鼻から息を吐く。
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