第132話:「経絡治療」を見直そう



◆「経絡」を本位とする◆
わたしの治療は「経絡的治療」です。患者さんの身体を診るときは「経絡」を意識し、治療にあたるときは「経絡」を調えることを常に考えているからです。
「経絡」を本位とする治療という意味では、一般的には既存の治療法(流派)として「経絡治療」があります。わたしの場合は「経絡治療」の先生に直接師事したわけではないので、あえて「経絡的治療」と標榜することにしています。ただ、「脈診」の代わりにオリジナルの診断法「FMテスト」を使うところなど、やり方に相違はあったとしても、「経絡」を調えることからして共通の治療システムであるとみています。

◆「調える」ことが治療の要諦
ここで特筆すべきは「経絡治療」は中国にはない、日本独特の治療システムであるということ。そのことに治療家はもっと誇りをもつべきです。なぜなら、その最大の特長が身体の左右に流れている「経絡」のバランスを調えることで「病気を治す力」を強めることにあるからです。しかも「病気を追い出すこと」ではなく、「病気を治す力」を強めて病気に傾きつつある状態から平常に戻すように、あくまでも「調える」ことが治療の要諦になっているのです。そのことは東洋医学の持ち味ともいえる「未病を治す」ことであり、現代医学からみれば当に「プライマリーケア(予防医学)」として大いに活用できるのです。

◆形骸化との批判に対して
昨今の鍼灸業界を見渡すと、現代中医学を基本とする「中医学派」、日本の伝統的古典を重んじる「古典派」、筑波大系が主導してきた「科学派」などが存在し、それぞれの治療スタイルはまさに百花繚乱のごとく多様化しています。多様化自体は別に問題ではないのですが、ただ、そのなかで特に気になることが「古典派」のひとつである「経絡治療」が時代とともに衰退してゆくのではないかという一抹の不安です。

その衰退の原因として必ず遡上にあがるのが「形骸化している」という指摘。それは、脈を診て弱い「経絡」を探し、その「経絡」の要穴(大事なツボ)に鍼灸を施す―という一連の流れがまるで儀式化し形骸化しているというのです。
しかしそうではないのです。形骸化しているのは「経絡治療」そのものではなく、むしろ治療者側の技量にあるとみています。つまり問題の本質は、たとえば「脈診」や「触診」という極めて感覚的な診断技術を自在にこなせる「職人的治療家」が時代と共に減少していることにあります。その結果、「経絡治療」の特長を生かせなくなってきていることが問題なのです。

◆価値を見直そう
こうした現状に対して「職人的治療家」を増やすことはもちろんのことですが、さらには「経絡治療」の価値をいまいちど見直すことが最も大切だと考えます。
そこで「経絡治療」の援軍ともいえる科学的エビデンスをひとつ紹介してみます。

水嶋丈雄医師の論文によれば、「鍼灸治療によって免疫力を向上させるには、圧痛点治療とか局所治療などの所謂「阿是穴(あぜけつ)治療」では効果がなく、一方、経絡治療とか全体治療などの所謂「本治法(ほんちほう)」では効果がある」と結論づけています。
 
【抹消血リンパ球と顆粒球の割合】
Ⅰ群(阿是穴治療)= 圧痛点治療、局所治療
   リンパ球:34.6%(治療前)→31.3%(治療後)
   顆粒球 :57.7%(治療前)→61.8%(治療後)↑
Ⅱ群(本治法)= 全体治療、経絡治療
  リンパ球:31.5%(治療前)→40.0%(治療後)↑
   顆粒球 :60.8%(治療前)→52.6%(治療後)

というのは、上表にあるように、「阿是穴治療」では顆粒球が増え、「本治法」ではリンパ球が増えています。これは、新潟大学大学院(医歯学総合研究科)の安保徹教授が96年に発見した「白血球の自律神経支配の法則」に基づき、顆粒球が増えるのは交感神経優位下であり疾病になりやすい体内環境であるということ。一方リンパ球が増えるのは副交感神経優位下であり免疫力が向上している体内環境であるということです。

交感神経優位  ⇒ 顆粒球↑  ⇒ 活性酸素放出 ⇒ 疾病になりやすい
副交感神経優位 ⇒ リンパ球↑ ⇒ 免疫力が向上する

つまり痛い所だけ鍼をするやり方(阿是穴治療)では、副交感神経優位にならないばかりか、免疫力を向上させて「病気を治す力」を強める作用はないということ。それが、経絡を調える「経絡治療」のような全体治療(本治法)を施せば、身体がリラックスして副交感神経優位になるばかりか、免疫力を向上させて「病気を治す力」を強めるようにはたらくことが科学的に証明されたのです。

以上のように、水嶋丈雄医師の研究論文は「経絡治療」にとって、これほど強力な援軍はないと誰しもが理解できると思います。(了)
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