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第183話:『Battlefield Acupuncture(戦場鍼治療)』(1/2)概要編



◆はじめに:
9月24日に放送されたNHK総合TV『東洋医学ホントのチカラ』をご覧になった方は多いと思います。鍼灸と漢方薬とヨガについての魅力を、最新の情報を交えてわかりやすく説明していました。良質な番組によって、東洋医学とりわけ鍼灸治療に対する認知度が上がることはとても嬉しいことです。

鍼灸治療家からみても、いろいろ興味深いところはありました。なかでも眼を引いたのが、アメリカ空軍のリチャード・ニエムゾー博士(Dr.Richard Niemtzow)が考案した『Battlefield Acupuncture(戦場鍼治療)』です。慢性腰痛患者に対して、特定の耳ツボに小さな鍼を留め、そして歩いてもらうと、痛みが瞬時に軽減する様子を紹介していました。どうみても従来の「耳鍼療法」とは取穴法や使用する鍼からして全く異質なものという印象を受けました。そこで『Battlefield Acupuncture』についていろいろ調べてみると、そのユニークな治療理論の全容が徐々に分かってきました。

今回は2回に分けて、ネット上で公開されているリチャード・ニエムゾー博士による論文『Battlefield Acupuncture』を基に、その概要を紹介すると共に、実際に臨床でこの治療法を試行した際の、わたしなりの手応えと感想をまとめた検証結果を報告してみたいと思います。

◆Battlefield Acupunctureとは
アメリカ空軍の鍼灸総合医学センター(Air Force Acupuncture and Integrative Medicine Center)のリチャード・ニエムゾー博士が、即効的な鎮痛を目的とした「耳鍼療法」を研究する過程で、2001年に開発したのが『Battlefield Acupuncture』です。日本語では「戦場鍼治療」と訳されるように、そもそも戦場が医療現場であることを前提に開発されたものです。急性や慢性に関わらず痛みを抱えた兵士に対して、鎮痛剤を使うことなく数分で痛みを軽減し、しかも耳鍼という性質上、嗜眠などの副作用がほとんどないのが最大の特長です。もちろん戦場に限らず、この治療システムはわたしたちの日常の臨床全般でも利用可能であり、当に新たな「耳鍼療法システム」として今後日本でも注目を浴びそうです。

従来の「耳鍼療法」の経穴図では、胎児を逆さにした解剖学的形状を(フラクタルに)耳の形に反映されています。耳たぶの中央が眼であり、耳穴周辺の窪みが内臓群であり、耳上部が足に対応したツボという訳です。たとえば、肩痛の治療であれば「肩点」を治療穴として選び、そこに鍼を留めるのです。

ところが、『Battlefield Acupuncture』の場合は、次に示す5つの特定されたツボを選択的に使用されます。



【5つの特定のツボ】
   1:CINGULATE GYRUS  (帯状回)
   2:THALAMUS    (視床)
   3:OMEGA2    (オメガ2)
   4:POINT ZERO    (ポイントゼロ)
   5:SHEN MEN    (神門)

ここで1~5の番号は、取穴の選択的な順番(後述)を表しています。ツボの命名と根拠については全てを把握している訳ではありませんが、「CINGULATE GYRUS」と「THALAMUS」はおそらく脳の解剖学的な名前に由来し、「SHEN MEN」は従来の耳穴である「神門」(の中国語読み)に対応していると思われます。

これら5つの特定のツボは、鎮痛を目的に選ばれた訳ですが、その鎮痛に至る機序については、NHKの番組を拝借すると、次のように説明していました。
「5つの特定のツボを刺激することで、まずは前頭前野における脳の血流が増加して活動が活発になります。前頭前野のはたらきはそもそも脳の興奮を抑えることであり、そのことが、痛みを感じる扁桃体の興奮を抑えるように作用して、結果的に痛みを感じさせなくするのです。」というように、5つの特定のツボは中枢神経レベルを刺激して痛みの処理をすると考えています。逆に言えば、中枢神経レベルに特異的にはたらく5つのツボを、リチャード・ニエムゾー博士が発見したということです。

◆治療の手順


慢性腰痛患者を例にすると、「ペインスケール」の図表をみせて、いま歩いている時の腰の痛みを、仮に疼痛レベルMax10と設定してもらいます。痛い方の腰が左側であれば、まずは左耳の「1:CINGULATE GYRUS」に「ASP鍼」という専用の鍼を刺して留めます。そのまま2分間ほど歩いてもらい、先ほどの痛みがどの程度軽減したかを再度「ペインスケール」をみせて、疼痛レベルを数値(痛みが7まで軽減すれば7/10)で申告してもらいます。次に反対側の右耳の「1:CINGULATE GYRUS」に「ASP鍼」を留鍼して、再び2分間ほど歩いてもらい同様に疼痛レベルに変化があるかを確認します。

以上の方法を、「2:THALAMUS」「3:OMEGA2」「4:POINT ZERO」「5:SHEN MEN」の順番で左右に「ASP鍼」を留鍼し、逐次、疼痛レベルに変化があるかを確認していきます。その過程中に、申告した疼痛レベルが0~1/10になった段階で、目標を達成し治療は終了とします。ちなみに「ASP鍼」は最大3~4日間を目安に留めます。

但し、治療を施しても疼痛レベルが治癒に到達しない場合があります。高齢者のケースあるいは、より複雑な病理を有する慢性病のケースです。治癒に到達しないといえども、疼痛レベルがある程度減弱することは鎮痛作用が一定程度はたらいていることを意味しています。つまりそれは、痛みが軽減することで次第に自然治癒力が追随してくる道筋と考えられます。よってそうした場合は、隔週で治療を継続することが望ましいと、リチャード・ニエムゾー博士は述べています。
次回は検証結果を報告します。(つづく)

※参考文献:
https://www.isla-laser.org/wp-content/uploads/Niemtzow-Battlefield-Acupuncture.pdf

※追記(2018-12-15)
:POINTO ZERO とは臍部(へそ)を意味。脾点とも符号することから中焦を代表したツボと考えられる。
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