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第185話:耳鍼『NADA 5NP』の紹介



◆新たな耳鍼として
最近の米国の鍼灸事情を調べてみると、「Battlefield Acupuncture(戦場鍼治療)」のように、耳鍼を使った治療が随分と多くあることが分かります。しかも日本のように主にダイエットを目的とするだけではなく、耳鍼の適応疾患はかなり広範囲に及ぶようです。

そんな中で、これは注目すべき!と思ったのが、薬物依存症(Addiction)やPTSD(心的外傷後ストレス障害Post-Traumatic Stress Disorder)などの精神疾患のために開発された「NADA 5NP」もしくは「NADA プロトコル」と呼ばれる耳鍼治療です。NADA USAという組織が推奨するプロトコル(治療手順)で、患者を座位のままで、左右の耳に5本ずつ刺鍼(5NP=Five Needle Points)して、およそ30分間前後置鍼するという極めて簡単な耳鍼治療なのです。

実は先月、大阪でのNADA JAPAN の講習会に直接参加して、講義と実技を体験してみました。今回はその感想を含めながら、新たな耳鍼である「NADA 5NP」を紹介してみます。

◆「NADA 5NP」誕生の経緯とNADA
「NADA 5NP」誕生の発端は、1970年代の初め、ニューヨーク・サウスブロンクスにあるリンカーン病院のマイケル・スミス医師が、従来の耳鍼法を改良して、薬物依存症のための新たな耳鍼治療を開発したことによります。医師、看護師、心理療法士、ケースワーカーなどのチーム医療とする薬物依存症治療に、患者同士のミーティングと併用して鍼灸師による耳鍼がプログラムに加わると、明らかに回復や医療費の削減に多大な効果をもたらしたと報告されています。

1985年には、この新たな耳鍼治療の普及促進をめざす目的から、マイケル・スミス医師を中心とする専門家グループによって、NADANational Acupuncture Detoxification Association」USAが設立。その後、多くの洲で「NADA 5NP」が薬物依存症治療のプログラムとして取り入れられ、各州にある薬物裁判所(Drag Courts)においても既に使用されています。また、他のニコチンやアルコール依存症の治療にも「NADA 5NP」は欠かせない存在になっています。
さらには、2001年の9.11事件の際は、被災者や消防隊員向けのPTSD治療として、この「NADA 5NP」が活用され実績を挙げました。
今や米国のみならず、欧米や東南アジアにも広がり、現在世界41か国のNADAが各国独自の活動をしています。そして日本でも、大阪に本部を置くNADA JAPAN(代表理事:上原千奈都)が2016年に41か国目として設立したのです。

◆「NADA 5NP」の手順と選穴
「NADA 5NP」の治療はほんの数分ぐらいの簡単な手順からなります。使用する鍼は0.5寸(最近では0.5寸鍼を美容鍼と呼ぶらしい)のディスポ鍼で、太さは1番鍼(径0.16mm)~3番鍼(径0.20mm)を選択。使用する耳のツボは、写真に示す5つの指定されたツボ。刺鍼の順番は特に決まってはいません。患者は座位のままで、左右の耳それぞれ5カ所のツボに、施術者が鍼柄を(午後10時から午前2時の角度で)軽く撚鍼しながら刺入していきます。合計10本の刺入が終われば、照明を少し暗く落とし、音楽を流した室内で、20~45分間、置鍼したまま静かに坐ってもらうのです。治療頻度は毎日から週に数回を推奨しています。



ここで適用される5つの耳穴は次のとおりです。
① Shen Men (神門)
② Lung point (肺点)
③ Kidneys point (腎点)
④ Sympathetic point (交感点)
⑤ Liver Point (肝点)

実際に体験してみると、刺鍼中は耳周辺がボアッと温かくなって眠気を催し、心身共にリラックスする印象を受けました。これら5つのツボによる総体的な効果とは、心や身体を癒やし、穏やかに維持できるように、バランスと秩序を取り戻すものと考えられます。

米国での臨床報告によると、つぎのような効果を挙げています。
◎薬物(あるいは他の)依存に関する症状(気分変動・不安感・不眠・悪夢・イライラ・虫唾が走るような不快感・混乱・幻覚など)の減少。
◎離脱症状、薬物副作用の減少。
◎PTSDに関する症状(不眠・うつ・不安感)の減少
◎高いリラクゼーション効果。ストレス減少。
◎気持ちをポジティブにかえ、回復へのモチベーションをあげる。

◆「NADA 5NP」の特長と目標
「NADA 5NP」の内容を精査していくと、薬物依存症やPTSDという特殊な疾患を扱う上で、耳鍼の特長である施術の簡便さと、「気の場」ともいえる設定づくりを最大限に利用している印象をうけました。

施術の簡便さというのは、リラックスできる椅子があれば、場所は問わないこと。部位が耳に限定しているので短時間で済むこと。そしてなによりも脱衣の必要がないことです。たとえば、薬物依存の回復プログラムとしてのミーティングの前後で、その会議室を使って集団で治療ができますし、米国の9.11事件後におけるPTSD治療のように、被災地の避難所のような場所でも、容易に治療場所をセッティングができて、しかも集団の治療が可能になるのです。

次に、「気の場」ともいえる設定づくりに欠かせない要素をあげるとすれば、ひとつは、患者それぞれに同一の治療を提供し、あえて集団で治療することです。それは薬物依存の患者やPTSDの患者を一人にさせないことを最も大切にしているからです。ふたつ目は、「非言語」つまり問診をしないこと。というのは薬物依存の患者にとって大切なことは、反省を促すことよりも、適切な治療を受けることを優先すべきといわれています。そしてPTSDの患者の場合は、過去のトラウマがフラッシュバックする危険のある問診は厳禁ということです。

このように「集団治療」と「非言語」の下で、鍼灸師は患者に寄り添いながら治療を坦々と施すことが、独特の「気の場」を形成します。患者さんが安神安寧(リラックス)が得られる「場」になることが「NADA 5NP」の最大の特長であり、「NADA 5NP」が求める目標であると考えられます。(了)

※NADA USAのホームページ
https://acudetox.com/
※NADA JAPANのホームページ
http://www.nada-japan.com/
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