FC2ブログ

第187話:心包/心包経を考える(1/2)




◆後付けされた「心包」
落語や時代劇のなかで、よく「お酒は五臓六腑に染みわたるってもんさ~」と使われる、この「五臓六腑」は、東洋医学の「臓腑経絡システム」にかかれば、実は「心包(しんぽう)」という見えない臓器を加えて六対六の「六臓六腑」という構成になります。

【臓】肝―心-―脾―肺――腎――心包
【腑】胆―小腸―胃―大腸―膀胱―三焦

この「心包」が追加されたのは、後述しますが『黄帝内経・霊枢』の頃になるようです。そこで「五臓六腑」から「六臓六腑」に移行した意味は、ふたつ考えられます。ひとつは、肝と胆、心と小腸・・のように、それぞれを裏と表の関係で臓と腑が対応させるために、三焦に対して「心包」を置いたということ。もう一つの意味は、「五行論」を背景とする「五臓」から、たちまち「六臓」に展開することで合計12臓腑(経絡)となり、それらを自然界の時空に反映する十二支、十二辰刻、方位などに対応させることによって、人の身体を「大自然=大宇宙」と照応する「小宇宙」、もうひとつの「自然」に見立てたということです。

となると、後付けされた「心包」は、単に数合わせの目的で誕生した臓器なのか?という疑問が当然あがります。しかし、「心包」は臓腑のなかでは、最も特異な存在といっても言い過ぎではないと捉えています。
そこで今回のテーマは、「心包」にスポットをあて、「心包」がなぜ特異な存在なのか、これまでの臨床経験を踏まえながら、わたしなりの見解をまとめてみました。

◆「心包」についての淵源
中国は馬王堆で発見された帛書(絹布に書かれた文書)である『陰陽十一脈灸経』や『足臂十一灸経』を調べてみても「心包」の記載はまだありません。当時(紀元前1世紀頃?)は厥陰経という概念はありましたが、直接「心包」という臓腑経絡の存在はなかったようです。続いて中国医学のバイブルとされる『黄帝内経』の時代になると、生理学書である『黄帝内経・素問』では、馬王堆帛書と同じように、まだ「心包」の記載はなし。ところが、鍼灸医学書である『黄帝内経・霊枢』になると、「経脈篇第十」のなかで初めて「心包」が言及されます。つまり同じ『黄帝内経』とはいえ、『素問』では「五臓六腑」、『霊枢』では「六臓六腑」の違いがあったのです。

◆「経脈篇第十」からみた「心包」の立ち位置
では、「心包」にはじめて言及した『黄帝内経・霊枢』の「経脈篇第十」を読み解いてみます。まず注目するのが、心包が他の臓腑と異なる表現で説明がなされている点でしょう。他の臓腑が(心を例にすれば)、「心手少陰之脉」(心は手の少陰の脈)と記載があるのになぜか、心包だけは「心主手厥陰心包絡之脉」(手の厥陰心包絡の脈を心は司る)とあります。これは「心包は心の臓器に付属し他の臓腑と連絡する脈である」と解釈でき、「心」が本丸とすれば、「心包」はその外堀という位置づけになります。

さらに、心と心包の関係は、それぞれの病症にも差異があります。同じく「経脈篇第十」では、病症を「是動病」と呼ぶ「経絡病」(病位は浅い)と、「所生病」と呼ぶ「臓腑病」(病位は深い)の2つに分けています。心と心包について、それぞれ2つの病症を比べてみると、以下に示す訳文(小曽戸丈夫訳)にあるように、明らかに「心包」の病症の方が重症であることがわかります。それは、本丸の心の臓器が直接侵襲される前に、まずは外堀部分の「心包」が盾となって受け止めるからだと解釈できます。
それと、心の「君火」に対して、心包は「相火」と呼ばれますが、熱性(火性)の症状は、ほとんどがこの「心包」の変動と考えて差し支えないのです。
したがって、日本の経絡治療において「心経虚」がないのは、心虚と心包虚をまとめて「心包経虚」で代表させる根拠にもなっていると考えられます。

【是動病(経絡病)】
<心 経>:のどがカラカラになり、心臓が痛み、のどが渇いて水を欲しがる。これは臂厥であって手が冷える。
<心包経>:掌が熱し、腕と肘がひきつれ、腋の下が腫れて酷いときは胸や脇がおしあげられたようにつかえ、心臓の動悸が激しくなる。顔は赤くなり目は黄ばみ、しばしば馬鹿悪いが止まらない。
【所生病(臓腑病)】
<心 経>:目が黄色になり、胸痛があり、腕の内縁の本経脈走行上が痛んで冷え、掌は熱をもって痛む。
<心包経>:心臓がもだえて痛み、掌が熱くなる。

◆心包経虚は「気分障害」と「睡眠」と「循環器系」
次に心包経の病証論は、流注に関係します。心包経の流注を整理すると、胸中に起り、心包をめぐってから下って三焦にからみます。その枝は胸から腋窩に出て、上肢の内面中央をめぐって掌中に入り、中指尖端の橈側で終わります。
なかでも、胸中の「心」の周辺から三焦へと絡むということは、「心包経」は他の五臓六腑に繋がって、血脈の循環ばかりか情志の変動も影響を与える関係にあるということです。現代中医学が謂うところの、心気虚・心血虚・心陰虚の病証が、経絡治療では「心包経虚」がそれを請け負うことで、心煩などの気分障害、不眠・途中覚醒・浅眠・多夢などの睡眠の症状、そして心臓疾患・高血圧・貧血などの循環器系の症状が呈しやすいということ。逆にいえば、「心包経虚」の方の養生すべきポイントは、気分と睡眠と循環器系になります。

ここまでの内容は、教科書の内容からそれほど逸脱していない内容かと思います。次回は、心包について、後世新たに分かってきたことを自説を絡めて論じます。(つづく)



スポンサーサイト