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第200話:「敏感すぎる人たち」に耳粒療法の試み



◆敏感すぎる人たち(HSC/HSP)とは
最近注目されている「敏感すぎる人たち(HSC/HSP)」をご存知でしょうか。子どもの場合は「HSC(Highly Sensitive Child)」、大人の場合は「HSP(Highly Sensitive Person)」と呼びます。これは90年代後半から米国で提唱された心理学的概念であり、病名とか傷害名という意味ではありません。

たとえば、周りの空気や他人の感情に敏感に反応するため、傷つきやすく、生きづらさを抱えやすい人たちです。この敏感さが、不登校やひきこもりの気持ちを理解するひとつの大きなヒントになるかもしれない-と言われ、最近特に注目されています。
それと心理面に加え、身体症状を随伴しやすく、敏感さ故にいろいろなものを感じ取って、刺激が脳の自律神経を乱して、睡眠障害や体の倦怠感、起きられない、など神経や精神を病みやすいことも特徴なのです。

◆4つの特徴
米国の臨床深層心理学者:エイレン・N・アーロンの『ひといちばい敏感な子』(1万年堂出版)によれば、HSC/HSPには次の4つの特徴を挙げています。
① 深く処理する(人の感情を取り込んで考えすぎる)
② 過剰に刺激を受けやすい
③ 感情の反応が強く、共感力が高い(同調性ともいい、人の気持ちが崩れこんで神経が疲れる)
④ ささいな刺激を察知する
このように、総じて感覚が敏感であることは発達障害に似ています。但し発達障害のように「こだわり」はなく、むしろ「共感力」とか「同調性」に長けていることが、HSC/HSPの最大の特徴のようです。

◆HSC/HSPの具体的なケースを紹介すると・・
次のような声があります。
【Case1(小5)】;ほかの子が先生に怒られている様子や、子ども同士の喧嘩など直接関係ないことにも心を痛めてしまう。頭痛や腹痛などの身体症状が現れる。担任は理解がなく、保健室を利用させてもらえず、不登校になりました。
【Case2(20代)】;知らない人が体調悪そうにしていたり、困っている表情をしていたりを通りすがりに見たりすると、帰宅してからも「あの人大丈夫だったかな?」と心配して寝られなくなることがあります。
【Case3(10代)】;人の感情が勝手に自分の中に入ってきて長い間苦しんでいます。友達や親が、嫌な気持ちになるとそれが見えてしまうから、笑顔にしようと無理に頑張ってしまう。
【Case4(20代)】;子どものころ、居間で寝っ転がっていたら、母のいる台所からトントンと包丁の音が聞こえてきた。するとその音を聴いていたらだんだん怖くなって涙が止まらなくなった。大人になってその事を母にしたら、当時父との関係がうまくいってなかったことを告白された。包丁の音を通じて母の感情が崩れこむように自分に入ってきたのだと思った。
【Case5(30代)】;映画をみて登場人物の気持ちが、共感を超えてなだれ込んでくる。しかも、主人公をいじめる側の人物の感情がなだれ込み、まるで自分がいじめているように思い自己嫌悪になる。映画を見終わるころには、暫らく立ち直れないくらいぐったりしてしまう。
と、このように、反応の仕方は様々ですが、中でも最も辛いケースは、相手の感情が自分の気持ちに雪崩れ込んでくることだそうです。

◆治療院で気づくこと
鍼灸院には、HSC/HSPを直接の主訴として来院する方はいません。むしろ自分がHSC/HSPだと気付いていないことの方が多いようです。わたしの場合は、FMテスト(オリジナルの診断技術)を使って「気の在り様」や「気持ちの在り様」を診れば、「敏感な方」かどうかは凡そ判断ができます。しかも、敏感すぎる感性が、主訴の誘因とみれば、先に紹介したような経験がないかを(慎重に)尋ねています。

◆どう向き合えばよいか
精神科の長沼睦雄医師によれば、「敏感さを例えると、相手の感情をスポンジのように吸い取るのだが、吸い取ったものを出せればよいが出せない。」と分析し、対応策としては「まずはHSC/HSPについて正しい知識を知ること。そして共有できる仲間をつくること。」を提案しています。さらに大事なことは「敏感すぎるという特徴を特長に代えて、『感度セレブ』と思えば楽に生きられる。」と助言しています。

わたしの治療経験でも、かつては「敏感すぎる子ども(HSC)」で大変だった患者さんが、今では表現活動の世界で活躍されている方を知っています。敏感すぎることで悩んでいる患者さんに対しては「むしろ『受信能力』がより長けていることに目を向けて、それを有効活用すべき。」と応援しながら治療しています。
写真―1
【写真‐1】

写真―2
【写真‐2】

◆耳粒療法の試み
ただ、『感度セレブ』と言われても、敏感すぎるために生じる日々の心身症状は辛いものです。これをなんとか少しでも軽減できる手立てが必要と考案したのが、次に紹介する耳粒療法です。
わたしの治療院では「敏感すぎる人たち(HSC/HSP)」の傾向がありそうな患者さんには、治療後に左右の耳穴の「神門」「裏神門」に耳粒(商品名:マグレイン)を貼付しています。ピンセットで貼り付けるという簡便性から、自宅でも貼付は可能ですからセルフケアとしても推奨しています。

「神門」【写真‐1】は三角窩の中央に位置し、耳穴の中では一番使用頻度の高いツボとされ、心身をリラックスさせ、ストレスによる症状の緩和を図るツボとされています。
もうひとつの「裏神門」【写真‐2】はその「神門」のちょうど裏側に位置するツボ。元々成書にないツボですが、薬物依存症の耳鍼治療を推進しているNADA USAが、ADD/ADHD(注意欠如/注意欠如多動)の子どもに効果があるとして、最近推奨しているツボなのです。
特にこの「裏神門」については、受信感度を穏やかにして興奮を抑えるだけでなく、スポンジのように吸い取った相手の感情を吐き出しやすくする効果を期待しています。

ちなみに、患者さんを坐位のままで、耳穴の「神門」と「裏神門」を2本の鍉鍼(刺さない鍼)で挟み込むように数秒当てていると、「気持ちが落ち着く」と言われ、ツボに一定の効果があることを直に確認できます。【写真‐3】

この「神門」と「裏神門」による耳粒療法は、今年から始めたばかりで、症例としてはまだ少ない数ですが、患者さんたちには一定の評価を得ています。このまま継続して検証を重ねていきたいと考えています。(了)

写真―3
【写真‐3】
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