第103話:患部の近位取穴法

◆ツボは筋肉にたずねる
先に紹介したオリジナルの「FMテスト」は、さまざまの身体情報を受信するための診断法で、道具を一切使わず、施術者の手指(Finger)と被検者の腕橈骨筋(Muscle)だけを使うのが最大の特長でした。もういちど説明すると、「FMテスト」ができることは大きく分けて以下の2つがありました。
【1】主要診断(経絡診断、気のありよう、情志のありようなどを診る)
【2】経穴診断(治療すべきツボを探し、正確な位置までを決める)
    ※参照記事⇒ 第88話:筋肉をつかう診断法「FMテスト」(1/4)
    ※参照記事⇒ 第89話:筋肉をつかう診断法「FMテスト」(2/4)
    ※参照記事⇒ 第90話:筋肉をつかう診断法「FMテスト」(3/4)
    ※参照記事⇒ 第91話:筋肉をつかう診断法「FMテスト」(4/4)

さて今回紹介するのは「患部の近位取穴法」です。これは「FMテスト」の【2】経穴診断と同じように、筋肉を利用した取穴法(ツボを探す方法)ですが、違うのは「FMテスト」が腕橈骨筋を使うところ、今回の「患部の近位取穴法」では直接患部の筋肉を使う点です。さらに、対象となるのは整形外科系統の運動器疾患です。たとえば、腰痛であれば痛みを軽減するツボを腰部に求める方法であり、膝痛であれば痛みを軽減するツボを膝の周辺に求めることをいいます。

やり方の概要は、痛い患部を右の手指で軽く揺すりながら、左中指(N指)を周辺にスライドさせて、右の手指で触っている患部の緊張がストンと弛んで痛みが軽減するポイント=「ツボ」を探すという方法です。つまり患部の痛みを軽減できる「ツボ」は、必ず患部の周辺(近位)に存在すること。そしてその「ツボ」の所在は患部の筋肉にたずねると、ちゃんと応えてくれるのです。それが「患部の近位取穴法」の特長です。


【写真A】

◆取穴法の実際:ばね指(弾発指)の場合
では実際のやり方を「ばね指」を使って説明しましょう。【写真A】は中指(第3指)が「ばね指」と想定しています。中指を曲げて(屈曲)から伸ばそう(伸展)とすると、ひっかかりが生じ、場合によっては痛みが伴います。腱が腱鞘(けんしょう)という鞘(さや)の中をスムーズに動ないことが原因です。結果、赤いシールを貼っているip関節と呼ばれる部位が腫れて、軽く押すと痛みを感じます。この赤いシールを貼った部位を「患部」とし、「患部」の痛みを改善できるツボを、この「患部の近位取穴法」によって探し出すのですが、青いシールを貼った部位がその「ツボ」に当たります。
   (※以後、赤いシール=「患部」、青いシール=「ツボ」を表します。)


【写真B】

ばね指のツボを探す方法が【写真B】です。右手指で「患部」を軽く揺すりながら、左中指(N指)を前腕周辺にスライドさせ、右の手指で触っている患部の緊張がストンと弛んで痛みが軽減する「ツボ」を探します。この場合の前腕周辺とは、屈筋腱の延長にある総指屈筋(そうしくっきん)です。反応点を現す「ツボ」は、やや陥下して硬くなっているのが特徴です。ここで大事なことは、施術者が「患部」の緊張が弛む感覚を右の手指で確認できたとしても、患者さんにとって「患部」の痛みが軽減していなければ、それは正しい「ツボ」ではないということ。「このツボをこうやって触ると痛いところが軽くなりますか?」と必ず確認します。このように、感覚的な変化を施術者と患者さんが共有することは、正確な取穴をすすめる上では最も大切なことになります。

◆治療上の留意点
以上の「患部の近位取穴法」で求めた「ツボ」に鍼灸を施します。鍼であれば、やや深めに刺鍼してから「得気(とっき)」といって「鍼の響き」を加えた方がシャープに効いて、「患部」が弛むのがはっきりわかります。ただし鍼を深く刺すのが苦手だと訴える患者さんにはお灸(透熱灸)を施します。お灸でも同様の結果が得られます。

「患部」について治療をすべきかですが、「ツボ」に鍼灸を施すことで「患部」の痛みが軽減しているのであれば、原則「患部」への治療はいらないことになります。ましてや「患部」がもし炎症がつよくて腫れや熱感がある場合は、むしろ「患部」への治療は避けるべきです。いずれにしても、「患部」に直接鍼灸を施すことよりも、「患部」の周辺に反応している「ツボ」を探してそこに鍼灸を施した方が、よく効くのは経験的にも明らかなことです。

◆「患部の近位取穴法」の留意点
ツボをどこに探るかという勘所は、まさしく施術者の知識と経験から自然と生み出されるものです。筋性疾患という運動疾患から考えれば、ツボは関連する筋肉上に探すわけですし、また東洋医学の観点からみれば、ツボは「経絡(けいらく)」とか「経筋(けいきん)」上に自ずと求めるものです。知識と経験を絶えず蓄積しておくことは、診断技術にとっては大いなる財産になるものと思っています。

この取穴法で、ツボが簡単に取れそうに思うかもしれませんが、実際のところ触診技術がある程度の水準にないと、うまくツボは取れないものです。患者さんの体表を触るなかで、緊張の度合いや硬結の有り無しなど、微妙な変化を指頭感覚で捉えられるようになるには、普段から大勢の患者さんの体表を触るという経験をとにかく積むしかないのです。いわゆる「治療家の手」を作る努力は普段から惜しまないことです。

尚、今回は「ばね指」を例にして「患部の近位取穴法」を説明しました。他の部位における運動器疾患については、これと同様に運用できます。それらは細かいところでの留意点を含めて、まとまったところで追々紹介していこうと思っています。
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