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第116話:無意識と自然治癒力の関係(2/2)



◆「熱平衡」と「エントロピー増大」
たとえば熱という現象を考えた場合、カップに入れたコーヒーは時間がたてば冷めて室温と同じになります。これは熱エネルギーが拡散して均一化し、化学変化がなにも起こらない「熱平衡」という安定した状態になったこと。こうして時間的には不可逆で均一化に向かわせるものを「エントロピー」と呼び、偏りのない方向への変化を「エントロピーが増大する」と表現します。これが熱力学第2法則である「エントロピー増大の法則」です。

エントロピーの増大は、あらゆる自然界の現象にも応用されます。「宇宙」も膨大な時間がたてばやがて均一の状態になり、何も動かない「死滅」したものになるということになります。また「人体」においては、排泄機能が低下するとエネルギーの排出が抑えられて「エントロピー増大」に繋がり、老化が進むという解釈もできます。

◆「安定した非平衡状態」と「散逸構造論」
「熱平衡」は理論的には役立つのですが、実際に身の回りに存在する物理現象では、ほとんどが温度差・気圧差・電位差などを呈した「非平衡」状態の方が圧倒的に多いといえます。ノーベル化学賞のイリヤ・プリコジン(1917~2003)は、この「非平衡系」の問題に着目します。プリコジンは自然の中の「非平衡系」には、時として「安定した状態」が見出されることを説き、それを理論化したのです。それを「散逸構造論」といいます。「散逸」とは、系の外部からとり入れたエネルギー量を低いレベルの廃棄物として排出するメカニズムのことで、それによって全体の系は安定状態を保つことができる-というのです。

要は、温度差・気圧差・電位差というようなすべての物理現象は、永い時間(物理的時間)の流れのなかでエントロピーが増大しながら均一化に向かっています。ところが、ある部分に注目すると、固有の時間(生命の時間)の流れのなかで、エントロピー増大に抵抗する「自発的で自己組織的」なメカニズムが作動し、システム全体を「安定した状態」に形成する-ということをプリコジンは立証したのです。
地球環境を例にとれば、地球の大気は太陽光によって加熱された地面により下部から温められ、上部では宇宙へと熱を放散しています。これにより大気に「熱対流」という「自発的で自己組織的」なメカニズムが発生します。それが地球環境というシステム全体を安定的に維持できるようにはたらいているのです。

◆生命体のなかの「散逸構造論」
非平衡系のなかでエントロピー増大に抵抗する「自発的で自己組織的」なメカニズムが作動するメカニズムといえば、安定した非平衡系である「生命体の内部」にも当然応用できるということ。つまり生体が「老化」や「死」に向かうことでのエントロピー増大に対して、「自然治癒力」というメカニズムが抵抗して、生体の秩序(コスモス)を形作るということです。こうして生体の「自然治癒力」のメカニズムは、プリコジンの「散逸構造論」を背景として説明できるのです。

◆「自然治癒力」が「無意識」にある理由
では、生体の「自然治癒力」が「無意識」とどう結びつくのかという問題です。それはプリコジンが中国の時間観に注目し、二つの異なる時間観で分析したことで説明できます。
先に説明したように、エントロピーが増大する過程は「物理的時間」であることに対して、
エントロピー増大に抵抗するメカニズムが作動する過程は「生命の時間」でした。

エントロピー増大のプロセス      ⇒ 「物理的時間」(クロノスの時)
エントロピー増大に抵抗するメカニズム ⇒ 「生命の時間」(カイロスの時)

中国思想の代表的経典である『易経』では、「時間」の中に生命の「成熟」の力が潜在していると考え、これを「質的時間」である「カイロス」、事物の変化をもたらすという意味で「生命の時間」として位置付けています。そうした意味では、カイロスはいわゆる「易の時間」といえるものです。
「易の占い」は、「卦」という象(かたど)られた形(シンボル)から、「無意識」からの直観によって未来(または過去)における空間的事物の状態を知ることです。つまり生体の深層部にある「無意識」こそが「カイロスの時」が流れる特別な領域といえます。

プリコジンがこの「カイロス」に注目したのは、不可逆的時間での「エントロピー増大」に抵抗できるのは、可逆的にはたらく「生命の時間(カイロスの時)」なのです。
だからこそ、「エントロピー増大に抵抗するメカニズム」である「自然治癒力」は、「無意識」によってはたらいていることを、プリコジンは示唆していると考えます。(完)


※「クロノス」と「カイロス」:
ギリシャ語によれば、時間には「クロノス」と「カイロス」の2つに分類。まず「クロノス」は通常の「順番に流れていく時間」のことで、数量化される「物理的時間」。それに対して「カイロス」は英語ではタイミング(時機)と訳されることが多い時間概念。たとえば生涯のパートナーと出会った日とか、就職試験に合格した日とか。これは過去の記憶とか、未来の予想に関わるので「質的時間」と呼び、また「こころ」で感得する時間なので「生命の時間」と呼ばれる。
※湯浅泰雄『共時性の宇宙観』人文書院(95年)
※プリコジン『確実性の終焉』安孫子誠也/谷口佳津宏訳・みすず書房(97年)
正直内容が難しくてぼんやりとしか理解できない。時間の不可逆性を「時間の矢」と表現。時間論についてアインシュタインやベルグソンとの比較は興味あるが、解説書がほしいところ。
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