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第121話:鍼灸治療と「意念」



◆「意念」との最初の出会い
「意念」とは元々「気功」の用語で、意(こころ)を以って念ずることを言います。
この「意念」という概念をはじめて知ったのは、まだ鍼灸専門学生の頃、経絡治療で著名なA先生の治療を受けたときのことです。それは学生が対象の講演会で、たまたまわたしが志願してモデル患者になったのです。特段悪いところはなかったのですが、下腹部の一箇所に圧痛点がありました。A先生は足のツボを選び、そこに1本の細い銀鍼を刺入。すると不思議なことに、その痛みが消失していったのです。刺されているという感触がほとんどなく、それでいてジワーッと温かい波が押し寄せてくるような実に繊細な鍼でした。当時のわたしにはとても衝撃的で、思わず不躾にも「鍼をどのように打つのですか?」と尋ねたものです。ところがA先生の口からは、わたしが期待していた刺鍼技術を述べることはなく、むしろ「鍼を刺しながら、意識は治療すべき部位に置くことです」と、当に意識の持ち方である「意念」について説明されたのです。

◆「意念」の使い方
それから20年ほどの歳月が経ち、現在わたしの鍼灸治療では要所要所に「意念」を使っています。たとえば、ツボの反応を診るときや経絡を診断する際は、指をツボに向けてかざすだけで、ツボに直接触ったときと同じ反応を受信できます。触らなくてもツボの反応を受信可能にするのは、「触ったつもり」と念ずる「意念」が意識中にはたらかせることで成立するからです。

もうひとつの使い方は、ツボに刺鍼しながら意識を経絡の延長上にある患部や特定の部位に置くことです。そこに意識を置くことで、始点(刺鍼するツボ)から終点(患部または特定部位)までを経絡の連続体として捉えることができ、そこに気の流れの通路としてより意識することで気がより流れる―という効果が期待できます。

但しここで注意すべきは、「意念」の使い方がひとつ間違えると主観的な(ひとりよがりの)感性に彩られやすく、結果客観的な精度を失うことになります。そんな諸刃の剣のごときの「意念」とは、結局使う側の技量と意識の持ち方で大いに効果が左右されるということです。とはいえ、逆からいえば「意念」がもつ最大の特性は、治療家自身の「意識の持ち方」が常に問われるところにあると言えるのです。

◆「印堂」で捉える
ではその「意識の持ち方」とはどのようなものでしょうか。そのひとつの方法は、眉間のツボである「印堂(いんどう)」に意識をもち、そこから対象物を捉えるという方法を取っています。「印堂」は仏教では「白毫(びゃくごう)」と呼び、釈尊が悟りを開いた際に光を放った処であり、道教では「天心」と呼び、瞑想で意識する処です。さらにヨーガの世界では「アジナチャクラ」「第3の眼」として扱っています。それだけ「印堂」は特別な意味合いを持っているツボなのです。

この「印堂で捉える」という方法は本山博の著書からヒントを得ました。そこには妻の膀胱炎を「外気功」で治療した行(くだり)があり、それを読むと直感的に腑に落ちるものがあったからです。その行とは-眉間のアジナチャクラから気エネルギーを、2メートル離れた椅子に掛けている妻に対して、膀胱経の気エネルギーが集まる経穴で、膀胱の異常のときよく反応の出る「中極」という経穴へむけて5分間送った。-とあります。
この眉間のアジナチャクラ(印堂)から気エネルギーを送る-という行為は、「意念」でいえば、アジナチャクラ(印堂)から臨んで対象物を捉えるということに通じると考えたのです。

先の例で言えば、「触ったつもり」と指をかざすときは、指先の延長上にある経穴を「印堂で捉える(視る)」ようにし、または「患部や特定の部位」に意識を置くときは、「患部や特定の部位」を「印堂で捉える(視る)」というイメージで「意念」を働かせるのです。

◆「意念」がはたらきやすい「場」
鍼灸治療とは治療家と患者さん間の「気の交流」であると、わたしは常々考えています。「治療家」が「患者さん」に発信する際の「意識付け」の有り様が「意念」であり、当にその如何によって「患者さん」からの反応が的確に返ってくるわけです。したがって「意念」がはたらきやすい「場」を確保することは、取りも直さず治療家と患者さん間の「気の交流」を活性化することに繋がるわけです。それには、治療家は常に自己の感性を磨くことであり、治療家は患者さんに信頼される人であることだと肝に銘じております。


※気功における「意念」:
気功の「意念」には「意気相随」あるいは「意守」という意味を含む。「意気相随」とは意識の向かうところに気が流れることで、例えば特定の経絡に意識を向けることで気を流す。また「意守」の場合は「意守丹田」のように、特定の個所に精神を集中すること。つまり「意念」とは意のままに気を流したり気を集めたりすること。

※本山博『気・瞑想・ヨーガの健康法』名著刊行会
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