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第13話:お灸の俳句

昨年のことです。患者さんのAさんがお灸の俳句を詠んでくれました。
そろそろ梅雨明けかなと思うころ、開口一番「お灸」の句を作ったから、ぜひ見てほしいとおっしゃいます。なんでも当月の句会で、当季雑詠として投句したばかりだそうで、報告方々その作品を披露してくれました。

短冊には丁寧な字で次のように書かれていました。

「鍼灸の 炎る響きや 身の緊まる」

ちなみに「炎る(もゆる)」は夏の季語と説明。講評の段では、他の会員の多くが鍼灸治療の経験がなく、どうしてもこの「炎る響き」という表現を理解してくれなくて悔しかった、とAさんはおっしゃっいます。

Aさんは70代後半。治療しながらかわす会話からも、俳句がいかに大切なものであるか、俳句に疎い私にも重々伝わってくるほどです。
句作にかける意欲は衰える様子もない。ただ没頭するあまりについ長時間坐ってしまうと腰に疲労はたまりやすく、その都度治療においでになります。

鍼灸治療の目的は、腰の疲労を取ってあげることは勿論のこと、専門的には「腎虚」の治療です。「腎虚」の特徴のひとつが「根気の衰え」。お灸で「腎」を養うことで、いつまでも句作に励む意欲(力)を保つ―そんな願いをこめつつ治療に「気」を込めます。お灸は指で小さくひねって据える昔ながらの方法(透熱灸という)。火傷することなくジワッーと身体の深部まで熱がとどくのが、とても気持ちがよいとAさん。ときには腰のツボにお灸を据えているのに、なぜか足先の方に「ジーン」と伝わります。これが「お灸の響き」といって、気の流れが広範囲に通じたことだと私は理解しています。

お灸独特の「響き」を、夏の季語「炎る」を添えて詠んでいただくことは、治療家冥利に尽き、何よりもうれしいことです。Aさんの一句、永く大切に胸に刻んでおきます。
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