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第155話:鍼灸の「補瀉」について



◆「補瀉」とは
病証を捉える際の重要な尺度となるものが「虚実論」であることを前回説明しました。次に展開すべきは、病証の「虚」と「実」に対応した治療法として「補瀉(ほしゃ)」の概念となります。
「虚証」に対しては生気を補うという意味での「補」の鍼術を施し、「実証」に対しては気の流れを阻害する邪気を取り去るという意味での「瀉」の鍼術を施します。これら「補法」「瀉法」の鍼術を「補瀉手技」と呼びます。

「補法」:「虚証」に対して「生気を補う」鍼術
「瀉法」:「実証」に対して「邪気を取り去る」鍼術

たとえば、「陰虚証」(陰経の1経絡が虚)であれば、虚の当該経絡の最も反応が顕著な要穴(絡穴または原穴)に「補」の鍼術を施し、併せて、その母経の最も反応が顕著な要穴に「補」の鍼術を施します。
次に「陽実証」(陰経の1経絡の虚に乗じて1陽経が実)であれば、虚の当該経絡の最も反応が顕著な要穴(絡穴または原穴)に「補」の鍼術を施し、併せて、実の当該経絡の最も反応が顕著な要穴に「瀉」の鍼術を施します。

◆「夕べに死すとも可なり」の世界
ある高名な治療家は、「補瀉」が分かればまさに「夕べに死すとも可なり」とまで言い切りました。この至言は、鍼灸師は「補瀉」を自在に駆使するという高みを常にめざすことが肝要であるとしながら、「補瀉手技」は容易に体得できる技(わざ)ではないぞ!という戒めも、たぶんに込められています。
その容易ならざる理由とは、「補瀉手技」(を施す治療家)には極めて繊細な感覚が要求されるということ。たとえば押し手(鍼を支える指)に「気」の去来や「邪気」の排出を感じるという、まさに熟練を要する伝統技術なのです。

さらに、極めて繊細な感覚が要求される技(わざ)だからこそ、やり方は一様には収まらない面もあります。教わる師匠によっても、依拠する古典文献によっても、やり方に違いが生じるものです。そうしたなかで、治療家は指先の感覚を頼りに、先人が遺した「補瀉手技」を検証することで次第に体得していくものだと思っています。

◆「補瀉手技」の具体例
ここで、わたしが現時点で採用している「補瀉手技」の二つを紹介してみます。

(a)「遅刺速抜は補法、速刺遅抜は瀉法」
これは『黄帝内経・霊枢』の「小鍼解」篇を基本にしています。
具体的には、補法は「徐ろに刺入し捻転して気を集める。集めた気が外に漏れないように疾く抜鍼」します。一方瀉法は「疾く刺入して捻転して邪気もしくは余分な気をからめて、ゆっくり釣り針で持ち上げて外に出すように抜鍼」するのです。
特に補法で「捻転して気を集める」と押し手(鍼を支える指)に熱いものを感じます。また瀉法で「からめて、ゆっくり釣り針で持ち上げるように外に出す」というイメージでゆっくり抜鍼すると、敏感な患者さんであれば「何か身体から出ていく」との反応を得られます。

ちなみに、鍼灸の教科書では、よく「除刺除抜は補法、速刺速抜は瀉法」と記載されていますが、これは実際のところ古典の背景(出典先)がよくわからないと言われています。その手応えを比較すれば、断然「小鍼解」篇の手法に軍配があがるようです。

(b)「金鍼は補法、銀鍼は瀉法」
刺さない鍼「テイ鍼」を使う補瀉法です。これはわたし流の使い方で、要穴に「テイ鍼」を経絡の走行に沿って横に置き、絆創膏で固定します。所謂「テイ鍼」を約10分置鍼する方法です。「陽実証(陰経の1経絡の虚に乗じて1陽経が実)」の場合、「実」の要穴に「銀のテイ鍼」を、「虚」の要穴に「金のテイ鍼」を貼るのです。
金と銀の異種金属を使うことによって気の流れと邪気の排出をより促進させることができるようです。実際、敏感な患者さんであれば、置鍼中に身体の中を流れていく様子が体感できるといいます。(了)


※『霊枢』「小鍼解」篇からの引用文
「徐にして疾なれば則ち実すとは、徐ろに内れて疾く出すを言うなり。疾にして徐ろなれば則ち虚すとは、疾く内れて徐ろに出すを言うなり。」
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