第164話:足頸のツボとドーパミンの関係

◆足頸を曲げる検査


上の写真は、患者さんの足頸を軽く曲げる検査をしています。
「足頸を曲げてみますので力抜いてくださいね」と言葉をかけ、患者さんの踵を下から包み込むようにして軽く屈曲してみます。

ここで診るのは、足関節を他動的に屈曲させたときに、スムーズに動くかどうかです。もし鉛のように「ギューッ」と重い場合であれば「鉛管現象」、もしくは歯車のように「ギコッギコッ」とぎこちなく抵抗する場合であれば「歯車現象」といいます。いずれの場合でも、両足首の動きを比較しながら症状に左右差があるかどうか確認してみます。
これらの「鉛管現象」や「歯車現象」がみられた場合には、神経伝達物質であるドーパミンの減少が疑われます。

◆ドーパミン減少の鑑別
脳幹の神経核から分泌する神経伝達物質のドーパミンは、人間の感情と行動に影響します。その大事なドーパミンが減少してしまうと次の症状があらわれます。

(1)意欲や興味、好奇心などが減退し、無気力な状態になる。
(2)パーキンソン病の症状(後述)

足頸を曲げる検査は、ドーパミンの減少を捉えるひとつの目安に使っていますが、大事なことは、ドーパミンがなぜ減少しているかという鑑別です。
それは次の3つのケースが考えられます。

1つ目は「パーキンソン病」(と既に診断されている場合)です。ドーパミンが通常の20パーセントに減少するとパーキンソン病になるといわれます。パーキンソン病には、「振戦(手足や頸がふるえる)」・「無動(身体の動きが緩慢になる)」・「固縮(筋肉が固くなる)」の3つの代表的な症状があります。先にとりあげた関節部の「鉛管現象」や「歯車現象」は、この中の「固縮」に該当します。足頸に限らず手首とか肘の関節の動きもこの対象部位になります。
ちなみに、「振戦」という動的(アクセル)症状は神経伝達物質のアセチルコリンが増えるために起きる症状で、一方「無動」「固縮」という静的(ブレーキ)症状は神経伝達物質のドーパミンが減少という関係になっています。つまり、パーキンソン病とは脳内における神経伝達物質間のバランスの崩れであり、これを東洋医学からみれば、当に陰陽のバランスの崩れとも理解できます。したがってパーキンソン病の治療には、西洋医学(服薬療法)だけではなく、並行して鍼灸治療を施すことも勧めています。

2つ目は「加齢」です。年齢が80代や90代になると(個人差はありますが)ドーパミンが自然に減少していきます。そうなると特にパーキンソン病と診断されなくても、足頸に固縮がみられることがあります。高齢になれば、次第に動作が緩慢になり筋肉が固くなってしまうのは、ドーパミンンが徐々に減少していくという、いわば自然な現象といえます。ここで大事なことは、実年齢に対して加齢が早いかどうかの見極めと、急に加齢が進まないように、いかに養生をするかです。それには鍼灸治療(家庭でのツボ療法も含む)がとても有効的な養生法になります。

3つ目のケースは「薬剤性パーキンソニズム」です。これは、最近特に多い、精神の病気(統合失調症やうつ病)の服用薬により、副作用としてパーキンソン病の症状を作り出してしまうことです。精神の病気に使われる薬のなかでも、特にドーパミンの働きを妨げる作用(ドーパミン拮抗作用)をもつ「向精神病薬」や「抗うつ薬」などの服用がこれに該当します。治療院に訪れる患者さんのなかでも、高齢者やパーキンソン病ではないのに、足首に固縮がみられたら、まずはそうした薬を服用していないか、その中でドーパミン拮抗作用のある薬を使っていないかを尋ねます。もし副作用の症状であれば、そのことを医師に伝えるようにアドバイスしています。

◆ツボの選択(配穴)
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以上のように、足頸の検査から固縮(鉛管現象や歯車現象)が認められた場合には、上の写真に示す3つのツボを使用しています。上から①上巨虚(じょうこきょ)、②解谿(かいけい)、③内庭(ないてい)という、いずれも胃経(正式には「足の陽明胃経」)上のツボです。

ツボの位置は、上巨虚は足三里から下ること3寸。前脛骨筋の筋腹上に位置して、かつ前脛骨筋のモーターポイント(MC)に当たるツボです。
解谿は足頸の背側中央に位置するツボです。この辺りは、足の指を背屈させる長拇趾伸筋腱や長趾伸筋腱を触れられる部位です。
そして内庭は、足の第2指と第3指の付け根の窪みに位置するツボです。
これらのツボで、解谿内庭はそれぞれ五行でいえば、経穴と栄穴であり、ふたつのツボを刺激することで陰陽のバランスも調えられると考えます。

次に経絡の面から考察すると、古典によれば「痿病には陽明胃経をつかう」とされています。この「痿病」とは筋肉が衰えて萎縮やしびれがある状態ですから、筋肉疾患には「胃経」を使うことはより最適な選択といえます。また、「陽明胃経は多気多血」との成句もあります。つまり「胃経」は経絡のなかでも「気」も「血」も豊富に流れている経絡とされています。逆に言えば、「胃経」を治療することで「気」「血」の流れを大いに改善できるということになるのです。

わたしは、これら3つのツボに灸点紙を貼り、経絡の走行に沿い①⇒②⇒③の順番で透熱灸を5~7壮繰り返し据えています。家庭でやる場合は、透熱灸に代わり「せんねん灸」のような簡便灸を使ってもよいでしょう。
この治療を継続していくと、足首の固縮が次第に改善していくことが実感できます。ぜひ家庭療法としても試してみてください。

◆むすび(鍼灸でドーパミン分泌低下を改善できるか)
足頸の固縮は表面的には筋肉疾患にみえますが、実際には脳内のドーパミン放出低下という背景があるわけです。それに対して鍼灸はどれだけの効果が期待できるのかという疑問は当然あるかと思います。そうした疑問に対して答えるならば、鍼灸は薬のような強い効果はないにしても、穏やかな効果はあると認識しています。

というのは、ドーパミンの放出に深く関与しているのが「安らぎ」の神経伝達物質であるセロトニンといわれているからです。そもそも「気の医学」「癒しの医療」と呼ばれる鍼灸治療を施すことは、身体がリラックスしてセロトニンが放出されます。また治療家と患者さんとの独特な治療空間からみても、それは「グルーミング」や「スキンシップ」と同質の効果であることから、セロトニンの放出がより期待できるというものです。
つまり、鍼灸治療によってセロトニンが放出され、それが刺激となってドーパミン放出の安定につながり、「意欲や興味、好奇心などが減退し、無気力な状態」という感情も、次第に改善してゆくと認識しています。(了)
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