第167話:患部の近位取穴法(頸痛編)



◆はじめに
今回は「頸痛」治療についての「患部の近位取穴法」を紹介します。
まずは上の写真をみてください。「頸が痛くて動かせない」という患者さんに坐位の状態で頸を動かしてもらい、そこで痛いと訴える部位を「運動痛点」とします。「運動痛点」の位置は凡そ2つのケースがあるようです。ひとつは緑色のシールを貼った①の部位(横突起の位置)にあるケースで、もうひとつは②の部位(肩甲骨内縁)にあるケースと診ています。もちろん、①も②も患側は左右どちらのケースでもあります。

「運動痛点」が①と②の部位になぜ限定されるかといえば、(詳細は後述しますが)頸部の筋肉における解剖学的な理由にあるとみています。①と②のいずれの場合でも、頸痛の局所治療においては、「運動痛点」の緊張がストンと弛んで痛みが軽減する「治療点」をFMテストでわり出します。わり出した「治療点」に鍼灸を施すことで、頸部の関連筋肉は弛んで痛みが軽減し、傾いていた頸椎の歪みも是正できます。

では、「頸痛」治療における「患部の近位取穴法」の流れを、「頸痛」の解剖学的なメカニズムと留意点を交えて順次説明していきます。

◆「頸痛」は筋肉のスパズム
朝起きたら「頸が痛くて回らない」という「寝違い」は、「頸痛」の代表的症状といえます。いつもと違った姿勢で寝たことに加え、普段からの蓄積疲労と、運動不足もしくは加齢による筋肉の柔軟さの衰え、または寒さもしくは冷房による冷気など、それらのいずれかが誘因となって、頸の関連筋肉が急激にスパズム(こわばり)を起こした状態をいいます。
他にも、たとえば観劇や講演会などで長時間にかけて斜め前方に頚を向けても同様の症状が起きます。普段の生活動作と逸脱した姿勢(頸の角度)を長時間続けたことが原因で、「寝違い」と同じように頸の関連筋肉が疲労してスパズムを起こすのです。

◆「頸痛」のメカニズム
こうして頸の関連筋肉にスパズムが起きると、痛みを伴って運動制限を呈します。制限される運動とは、主に「回旋(頸を回す)」と「側屈(頸を左右に倒す)」と「伸展(頸を後ろに倒す)」などです。言い変えれば、「頸痛」のメカニズムとは、これらの運動に関わる筋肉がスパズムを起こすことにあります。
したがって「回旋」「側屈」「伸展」などの働きを担う頸部の筋肉を解剖学からわり出すと、頭板状筋、頸板状筋、頸腸肋筋、肩甲挙筋などがその関連筋肉であることが分かってきます。

発症時にひとつの筋肉にスパズムが起きると、周辺の筋肉にまでドミノ式に波及し、結果的に複数の筋肉までもがスパズムを起こしてしまいます。スパズムを起こしている筋肉が複数であればあるほど「頸痛」は重症といえます。逆に治療によって周辺の筋肉のスパズムが順次弛んでゆくと、最終的には大本である当該筋肉が残っていくという経過を辿るようです。

◆「起始/停止の部位」に着目
次に解剖学的なメカニズムについて説明します。
上述の頭板状筋、頸板状筋、頸腸肋筋、肩甲挙筋についての詳細(図解)は、それぞれ解剖学書で確認してください。ここで大事なことは、関連筋肉それぞれの「起始/停止の部位」に着目することです。

◎頭板状筋(とうばんじょうきん)
(起始)下位5頸椎の項靭帯、上位2胸椎の棘突起に付着。
(停止)側頭骨の乳様突起と後頭骨の上項線の外側部に付着。
(働き)頭部の伸展、回旋、側屈。
◎頸板状筋(けいばんじょうきん)
(起始)T3~T6(ないしはT5)までの棘突起もしくは項靭帯に付着。
(停止)C1~C2の横突起後結節に付着。
(働き)上位頸椎を外方・側方に引く。頭部を回旋、側屈、伸展。
◎頸腸肋筋(けいちょうろっきん)
(起始)第1~6の肋骨の肋骨角に付着。
(停止)C4~C6の横突起に付着。
(働き)頸椎の側屈、伸展。
◎肩甲挙筋(けんこうきょきん)
(起始)C1~C4の横突起に付着。
(停止)肩甲骨の上角、内側縁の上部1/3に付着。
(働き)肩甲骨を上に上げる。

「起始/停止の部位」に着目する理由はほかでもありません。回旋なり伸展なりの運動の際に痛いと訴える「運動痛点」と、その痛みを弛めてくれる周辺の「治療点」は、共に「起始/停止の部位」のポイントに凡そ符合するからです。それは「患部の近位取穴法」を通して経験的に分かったことです。つまり、「運動痛点」と「治療点」は解剖学用語でいう処の「横突起」「肩甲骨の上角」「棘突起もしくは項靭帯」「肋骨角」のいずれかに該当しています。さらに言えば、それらは以下に示す近傍のツボに置き換えられるのです。

「横突起」⇒「天柱(膀胱経)」と「完骨(胆経)」を結ぶライン中央の「阿是穴」
「肋骨角」⇒ 膀胱経2行線上の「魄戸」もしくは「膏肓」
「棘突起もしくは項靭帯」⇒ 頸椎もしくは胸椎の「夾脊穴」
「肩甲骨の上角」⇒「肩外兪(小腸経)」

筋肉のスパズムを弛めるには、当該筋肉の両端付着部である「起始/停止の部位」辺りに「治療点」が存在することは確かに頷けることです。そのことは「N指」で頸部のどこに触るかという勘所の根拠にもなるということです。
では次に「患部の近位取穴法」の手順を説明します。

◆①のケースによる「患部の近位取穴法」


坐位の状態で、頸の回旋もしくは伸展の際に痛いと訴える「運動痛点」が右側の①の部位だとします。そこは「横突起」が回旋変位を起こしている処で、触ると圧痛を伴う硬結が認められます。そこに印をしておきます。
次に、患部を上になるように側臥位になってもらいます。印をつけた「運動痛点」を右の手指で軽く揺すりながら、左中指(N指)を周辺部位にスライドさせて、右の手指で触っている「運動痛点」の緊張がストンと弛んで痛みが軽減するポイント=「治療点」をわり出します。すると白いシールを貼った辺りに3か所の「治療点」が特定できます。そこに印をつけておきます。ちなみに頸胸椎に近い2か所は(華佗)夾脊穴、もうひとつは「肩甲骨の上角」に近い肩外兪(けんがいゆ)穴の位置にあります。

◆②のケースによる「患部の近位取穴法」


坐位の状態で、頸の回旋もしくは伸展の際に痛いと訴える「運動痛点」が左側の②の部位だとします。そこは「肩甲骨内縁」にある魄戸(はくと)穴もしくは膏肓(こうこう)穴に該当する処で、触ると圧痛を伴う硬結が認められます。そこに印をつけておきます。解剖学的には「肋骨角」と呼ばれ、たぶん頸腸肋筋が付着する部位だと思われます。
次に、患部を上になるように側臥位になります。印をつけた「運動痛点」を右の手指で軽く揺すりながら、左中指(N指)を周辺部位にスライドさせて、右の手指で触っている「運動痛点」の緊張がストンと弛んで痛みが軽減するポイント=「治療点」をわり出します。すると白いシールを貼った辺りに3か所の「治療点」が特定できます。そこに印をつけておきます。ちなみに頸胸椎に近い2か所は(華佗)夾脊穴、もうひとつは「横突起」外端に当たる阿是穴(あぜけつ)の位置にあります。

◆施灸と確認診断
「運動痛点」と「患部の近位取穴法」で求めた「治療点」の全てに5~7壮のお灸(透熱灸)をお勧めします。それは関連した筋肉の「起始/停止の部位」すべてを対象にしたほうが効果的であると考えています。それと鍼ではなくお灸にするのは、深刺しすると危険な部位も含まれるからです。

施灸をした後は、「運動痛点」を再び揺すってみて痛くなくなったか患者さんに確認します。患者さんに「痛いですか?」「痛くなくなりましたか?」と必ず前後に確認することです。
痛みが軽減したことを確認した後は、坐位の姿勢になってもらい、頸を動かして可動域が改善しているか、頸椎の傾きなどの歪みが改善しているかを確認します。
頸痛はスパズムを起こしている筋肉が複数であるほど、または筋肉の柔軟性が衰えているほど、完治までに少し時間がかかります。もし運動痛点の痛みや頸椎の歪みが少し残っていたとしたら、次回の治療にまわし、だいたいの予後を伝えて初回の治療を終了します。(了)

※肩甲挙筋について
肩甲挙筋は「肩甲骨を上げる」働きとする唯一異色の筋肉になるが、この筋肉がスパズムを起こすと、頸椎の横突起がひっぱられ、頸椎が回旋変位(Heaving)を呈してしまうことから、「頸痛」の関連筋肉に該当するとした。
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