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第19話:身体の声を聴く

患者さんとは一期一会の御縁をいただいて、一定の時間のなかで同じ空間を共有しています。治療家はそこで患者さんの身体と上手く感応できてこそ、身体の声を聴くことができ適切な診断治療ができると理解しています。そんな意味から、鍼灸治療は「気の交流」であると思っています。

伝統的な「脈診」においても、手首にある橈骨動脈を触れた感触から身体全体の状態を窺うことは、極めて感覚的な診断システムですが、「部分」から「全体」を窺うという構図からして、山田慶児「感応の原理」として成り立っていると説明しています。

ツボを探るときに、丁寧に触診して反応穴(治療にとって必要なツボ)をみつけるときもあれば、患者さんと話しながら身体を診ている中で、突然目の前にツボが現れる場合があります。まるでツボが鍼やお灸をしてと言わんばかりにです。不思議な現象ですが、同業の友人に聞いても同じような経験をしたことがあるといいます。

また常連の患者さんと治療中に何気ない話をしているときに、患者さんが話そうとしたことが、私が先に口に出したり、逆に私が話そうとしたことが、患者さんが先に口にだしたりすることがあります。これは以心伝心というか、ユングがいう共時性(シンクロニシティ)の世界として、深層の無意識レベルでお互いが感応しあっていることだと理解しています。

このように、患者さんの身体を聴くという行為は、治療家が患者さんの身体と感応して捉えるわけで、感性を基にした診断技術(脈診や触診など)を体得しておくことは当然のことですが、最も肝要なことは、治療家自身のアンテナ(受信能力)の精度を上げておくことです。

そこで、患者さんを前にしてアンテナを張るときは、いつも意識していることがあります。身体感受性を最大化するために、できるだけ「自分の身体を細かく割る」ということです。自分の身体をソリッドな単体ではなくて、人間の身体を構成する六〇兆の細胞で割るのです。つまり六〇兆の細胞で診るというイメージです。これは内田樹が武道家から教わったやりかたで、本来は武道家が相手の身体から送られてくる身体信号を聴きとるときの身構えですが、治療における「身体の声を聴く」ことにも大いに参考になっています。

ちなみに私が行う「身体の声を聴く」診察方法は、主に「FMテスト」というオリジナルの診断法を使っています。患者さんの筋肉(腕橈骨筋)に尋ねる方法なので、「Oリングテスト」の変法ともいえます。それを体系化しようと、文章にして書きとめては、また書き直したりしています。独り善がりにならず、あくまでも再現性と客観性をクリアできる診察技術として磨いていきたいと思っております。

※山田慶児『中国医学はいかにつくられたか』岩波新書(99年)
※内田樹『死と身体-コミュニケーションの磁場』医学書院(04年)
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