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第82話:中村桂子の「身体は身近な自然」



◆東洋の自然観
東洋では、古来より人間を小宇宙(ミクロコスモス)、自然界を大宇宙(マクロコスモス)とみなします。小宇宙と大宇宙の間には気エネルギーによる交流があり、気に満ちた自然界は単なる物質界ではなく「生ける生命的自然」として捉えられます。たとえば地球をひとつの生命体とする「ガイア」の思想も、これに準拠した考えといえます。

人間が小さな宇宙であることは、小さな自然でもあること。つまりそのことは「身体は身近な自然」だといえるわけです。さらに人間は気エネルギーによって自然界という大宇宙と感応しています。人間が自然界の一員になることで、実は「人間は自然に生かされている」という関係にもなります。つまり、わたしたちの身体と心はエコロジカルな(自然と調和する)存在であるということです。

◆中村桂子の提言
この「身体は身近な自然」というキーワードを最近、科学者の口から聴く機会を得ました。その科学者とは生命誌研究者の中村桂子です。中村は生命科学の研究をするなかで、身体の中に起きている化学反応の流れには、必ず元にもどるという「循環」があることに気づきます。それは自然界で起きている「循環(連鎖)」と共通した現象であることから、人間の身体の中には実は自然界と全く同じことが起きているという認識に立ち、身体も自然も同じ眼差しで扱うべきであると説いています。さらに、日本が70年代に経験した公害問題を踏まえた上で、次のように述べています。

「私たちがもっている自然とは身体のこと。身体こそが身近な自然。だから自然環境を壊すことは、私たちの身体と(それに内在する)心をも壊すことになる。」

中村は水俣病を振り返り、不知火海をただの「水」と考えるのではなくて「生きものが生息する水」と考えをめぐらす科学者がいれば水俣病は発生しなかった。東日本大震災による原発事故も、科学技術に想定外があっても自然にそもそも想定外などという概念はない。自然はすごい力をもっていることを忘れてしまっていたことを謙虚に反省すべきだ、と発言し、自然と共生することが、実は自分たちの身体や心にとってもいかに大切であるかを説いています。

◆東洋思想への接近
人間と自然を切り離すことで発展を遂げてきた近代科学は、一方ではその弊害も露呈し「科学は決して万能ではない」ということを真摯に反省する時代にもなっています。その反省の上に立つ科学者としての中村桂子は、人間と自然が共生関係にあることの大切さを論じています。

こうした中村の主張は、はじめから東洋思想による自然観に示唆されたものではなく、科学者として「生命のありかた」を模索していった先に、結果的にそうした東洋的世界観に近づいたということ。このことは、近代科学が抱える諸問題を解決する上でのパラダイムシフトのために、東洋の叡智が有効な材料として提示できることを教えています。

※ETV『こころの時代』:「34億年 いのちの中へ」(2013年2月24日放送)
※写真の野鳥は、第2のトキになるのではないかと危ぶまれている「ミゾゴイ」
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