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第189話:船箪笥の本(その1)

~柳宗悦著『船箪笥』~



◆酒田と船箪笥
ふるさとの酒田は、かつて北前船に積んだ「船箪笥」の産地でもありました。今や「船箪笥」を作る職人は皆無となり、「船箪笥」は過去のものとなりました。羽越本線の酒田駅開業(大正8年)と同時に陸上交通網が発達し、さらに海運業は汽船の登場により近代化を計り、ついに船箪笥は北前船と運命を共にして終焉を迎えたと言われています。

子どもの頃(昭和30年代)の微かな記憶を辿れば、近所に箪笥屋と指物師の家があり、幼稚園に行く道すがら金具職人の家もありました。当時の高齢の職人たちが実は「船箪笥」の系譜上の職人であると知ったのは、随分と後になってからでした。
もはや伝説の家具となった船箪笥を初めて目にしたのが20代の頃、友人の誘いで何気に立ち寄った駒場東大前の「日本民藝館」。そこに展示してあった酒田の船箪笥は、とても風格のある骨董品に見えたものです。独特の金具を身に纏い、重々しい堅牢な造りの船箪笥は、欅や漆、鉄といった素材の持つ力と美しさをぎりぎりまで発揮させているところに、わたしはすっかり魅せられました。

◆柳宗悦著『船箪笥』から
興奮の冷めぬままに買い求めた本が、「日本民藝館」を創設した柳宗悦(やなぎむねよし)による『船箪笥』(昭和36年出版)でした。忘れかけていた船箪笥を世に初めて紹介した記念すべき本。趣のある旧仮名づかいの文面が、民芸運動の神髄を伝え、しかも写真のように、同胞である芹澤銈介が担当した装丁と本文に添えられた図案も、とても魅力的です。

船箪笥は用途の違いから、懸硯(かけすずり/硯箱を入れる)・帳箱(ちょうばこ/帳面類を入れる)・半櫃(はんがい/衣装を入れる)の三種類に大別されます。このうち懸硯と帳箱は一種の金庫(さらに言えば前者は手提金庫)で半櫃は衣装箪笥になります。



◆船箪笥の魅力
柳宗悦(1889~1961)は船箪笥の魅力を次のように語っています。
「船箪笥の一つの魅力はその金具にある。こんなにも見事な金具を澤山身に纏ふ箪笥類は他にない。今だとて技は残るのであらうが、作る機縁が薄く、又勢ひに缺ける。何か時代に、又生活に力がなくば、これほどのものを生むことは出来ない。」

船箪笥を単なる骨董品としてみるのではなく、むしろ、それを取り巻く生活者と職人に視座を置き、生活の力があるからこれだけの作品ができる「これだけのものを使ひ切る暮らしが再び欲しいではないか。」と現代の人々に諭すかのように柳宗悦は説くのです。これぞ民芸運動家の面目躍如たる主張といえます。
職人は技だけがあってもダメ。「作る機縁」と「作る勢い」を重んじるところに深い意味を感じとれます。「機縁」とは人と人のご縁であり、「勢い」とは職人の気概と読み取れます。職人を自認するわが身としてはそのことを胆に銘じながら、いつまでも大切にしたい一冊となっています。(つづく)

※柳宗悦著『船箪笥』春秋社(昭和36年刊)

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