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第193話:留意すべき「処方薬依存」のこと

◆病院の薬で依存症になってしまう・・・



いきなりですが、このグラフを見てください。松本俊彦医師(国立精神・神経医療研究センター)がとり上げたグラフですが、薬物依存の内訳を示しています。驚くことに「覚醒剤」に次いで2番目に多いのが、なんと「処方薬」なのです。病院で処方された薬を、指示通りに長期服用したことで「処方薬依存」となるケースが増えているという実態です。問題となるその「処方薬」とは、ほとんどが後述するベンゾジアゼピン系の抗不安薬や睡眠薬のこと。しかも年齢層が圧倒的に70歳以上の高齢者に多い傾向にあり、日頃、鍼灸治療院に来院している高齢者の方たちにも「処方薬依存」が確実に潜在している可能性があることを示しているのです。今や隠れた社会問題であることを憂慮しつつ、鍼灸師としても留意すべき問題であると考え、この「処方薬依存」を取り上げてみました。

◆抗不安薬と睡眠薬の副作用
抗不安薬と睡眠薬のほとんどは、ベンゾジアゼピン受容体作動薬(以下BZD薬)と呼ばれる薬剤から構成されています。その効能を挙げれば、抗不安薬は不穏・焦燥の鎮静や肩こりに対する筋弛緩作用、睡眠薬は催眠作用があります。但し一方では、副作用として、認知機能低下、筋力低下によるふらつき、そして依存性が挙げられます。

【BZD薬の主な副作用】
⑴認知機能低下、⑵筋力低下によるふらつき、⑶依存性

特に依存性に関して言えば、BZD薬の中で短時間型(短時間で効くタイプ)の薬剤ほど依存性が高いとされます。一般的によく処方される短時間型の主なBZD薬剤は次の通りです。

【抗不安薬】商品名(薬品名=ジェネリック名)
 ・リーゼ(クロチアゼパム) ・デパス(エチゾラム)
【睡眠薬】商品名(薬品名=ジェネリック名)
 ・ハルシオン(トリアゾラム) ・レンドルミン(プロチゾラム)
 ・ロラメット(ロルメタゼパム) ・リスミー(リルマゾホン)
 ・マイスリー(ゾルピデム) ・ルネスタ(エスゾピクロン)
 ※マイスリーとルネスタは、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬だが、筋弛緩作用は弱い代わりに、依存性はBZD薬と同等に認められている。

◆依存症のやっかいな特徴
BZD薬は、使用後最短4週間で依存性が形成されるといいます。依存性の症状としては、急激な服用の中断によっての離脱症状反跳現象(以前の症状が増強するリバウンド)があります。
離脱症状としては、不安の増大、不眠、焦燥、悪心、頭痛と筋緊張といった軽度のものが中心であり、覚醒剤のような強迫的使用欲求や使用量の増大がないことから、通常の「依存症」とは様相が異なり軽視されやすいといえます。

しかしながら、不安解消を目的として、安心料とか予防薬のつもりで漫然と服用し続けてしまうことが、むしろ「処方薬依存」の実態といえます。さらにはその結果として、筋力低下によるふらつきが次第に「寝たきり」に、健忘などの認知機能の低下が「認知症」へと移行する可能性が否定できないわけです。

「処方薬依存」のやっかいな問題として、本人の自覚しづらいことが挙げられます。特に一人住まいの高齢者は、処方薬依存であることを自覚しないままになっています。その場合は当然、家族や周囲の人の協力と理解が必要になります。

それともうひとつの特徴として、BZD薬を長期服用しているからといって、必ず依存症になるとは限らないということ。覚醒剤の場合は「依存症は孤立の病」と言われますが、このBZD薬による処方薬依存も同様です。一人住まいの高齢者で、家族や社会との関わりが薄いほど依存症になる可能性が高いといえます。したがって、BZD薬による依存症は、孤立・孤独を抱えた高齢者が、本人の自覚がないままに抱えてしまう、隠れた社会問題だと言えるのです。

◆「処方薬依存」が増えている理由
ではなぜ、BZD薬による「処方薬依存」がこれだけ増えているのか。ひとつ挙げられるのはBZD薬を安易に使用する医療者側の問題です。グラフで示すように、BZD薬の使用量は先進主要諸国の中では(安楽死が認められている)ベルギーに次いで世界で2番目。日本が極めて特異かが分かります。



本来ならば、BZD薬による睡眠薬や抗不安薬は、症状が緩解した時点で徐々に減薬して治療終了となります。例えば、次に示す厚労省がまとめた【睡眠薬の診療ガイドライン】を見てください。Ⓔ薬物療法では薬物の選択順位、Ⓕ認知行動療法では薬物療法に代わる心理療法、ⓘ休薬トライアルでは減薬方法などを示して、全体をフローチャートにまとめています。



ところが、実際の医療現場では、手っ取り早く効く薬物を処方することが第一優先であり、それこそ不眠に至る心理的原因を聴きだすこともなく、さらには緩解期となっても減薬することもなく、ずるずると長期にわたり処方を続けているのです。これでは、ガイドラインはまるで「お題目」にすぎないと言われてもしょうがありません。

◆「足がふらつく」と鍼灸院に来院する患者さん
こうしたBZD薬による「処方薬依存」は、今や、鍼灸院に訪れる患者さんの中にも散見できます。わたしの治療院では、この1年の間に「足がふらつく」を主訴とする患者さん(いずれも70歳以上の女性)が3名ほど来院しました。「なぜ足がふらつくのか?」と、かかりつけ医に聴いてみたら「加齢によるもの」と返ってきたそうです。加齢と言われても、患者さんにとっては不安です。鍼灸の力でなんとかならないだろうかとの思いで来院されたわけです。

細かく診察してみると下肢の筋肉が痩せて筋力低下を目視でも確認できます。さらに問診すると、それぞれがハルシオン、レンドルミン、デパスなどの常用者で、明らかにBZD薬の副作用である筋弛緩作用による筋力の低下と判断できます。よってBZD薬による「処方薬依存」、もしくはその予備軍としての可能性が十分疑えます。

さらに、その3人の患者さんには「ひとりで生活をされている。」「普段からあまり運動をしていない。」という共通点がありました。そこから見えてくる生活像は、御主人の介護から死別に至る過程で、いっとき精神不安や不眠があって睡眠薬/抗不安薬を服用。ところが、症状が改善したにもかかわらず、未だに安心料として漫然と服用し続けているというパターンです。

◆鍼灸師ができること
こうした患者さんには、経絡的治療による全体治療と、併せて、足の陽明経を使い治療しています。但し、治療すればそれで良いということではなく、足のふらつきの原因は、睡眠薬/抗不安薬(BZD薬)の長期服用によるものと説明し、さらには改善策を患者さんと一緒に考えるようにしています。
その際の説明や助言の要点は以下と通りです。
①BZD薬は長期服用するものではない。
②BZD薬の危険性(副作用と依存性)。
③減薬は自分で勝手にしないで、必ず医師の指導の基にやること。
(薬を止めたいことを医師に伝え、減薬の指導を受ける)
④日常的な運動を勧める。
(介護保険の通所リハビリ活用など)
⑤地域社会から孤立しない環境作りを考える。
(治療しながら患者さんの話をよく聴く。)         
                      (了)
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