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第38話:「霊台」考(その2)

◆「こころ」としての霊台――――

「霊台」が「魂」とか「こころ」の意味として使われているのは、古くは『荘子』雑篇の「庚桑楚」にあります。「(わずらいを)霊台に内(い)るべからず」とあり、この「こころ(霊台)」の中には、自然の道によって定まるものがあり、そこにはわずらいを侵入させてはいけない-という内容が述べられています。

翻って、背中のツボ「霊台」の周辺に目を落としてみれば、その肩甲骨内側のエリアに、この「霊台」をはじめ「心」とか「神」がつくツボが、以下のようにひしめいていることがわかります。きっと、このエリアは「こころ」に関連した「大事な処」であろうことを窺わせます。実際、精神疲労が募ると、肩甲骨内縁とよばれるこのエリアは、筋肉でいえば菱形筋ですが、まるで鉛のようなどんよりした様相になる処です。

神堂―心兪―神道―心兪―神堂  ・・胸椎05と06の間 
◎◎―◎◎―霊台―◎◎―◎◎  ・・胸椎06と07の間 

中国の古典を読むと、「こころ」は「肝心脾肺腎」の五臓に分かれて存在する、ということになります。とりわけ「心臓」に宿る「神」は重要で、そのために古典によっては心臓のみを「こころ」の在りかとして強調することすらあります。では、「心&神」の「こころ」とその下に置かれた「霊台」の「こころ」はどう解釈すればよいのか、私の勝手な解釈かもしれませんが、「霊台」の「こころ」はより深い、いわゆる「深層心」のように捉えています。

仏教の「唯識」では、「六識」、つまり眼識(げんしき)・耳識(にしき)・鼻識(びしき)・舌識(ぜつしき)・身識(しんしき)・意識(いしき)の六つは「表層心」と呼ばれ、「末那識(まなしき)」と「阿頼耶識(あらやしき)」が「深層心」と分類されます。つまり「心&神」の「こころ」は「六識」に該当する「表層心」で、「霊台」の「こころ」は「末那識」と「阿頼耶識」に該当する「深層心」ではないかとみています。特に「阿頼耶識」はフロイトの精神分析でいう「無意識」に当たるとされています。いわゆる直感の世界を含む「深層心」になります。

神堂―心兪―神道―心兪―神堂  ⇒ 「表層心」の場?:「六識」
◎◎―◎◎―霊台―◎◎―◎◎  ⇒ 「深層心」の場?:「末那識」「阿頼耶識」

そんなことを連想させたのは、実は夏目漱石の『草枕』でした。小説の中に「霊台」という言葉が出てくるのです。『草枕』は漱石の中では奇妙な作品で「俳句的小説」といわれます。画工の視点からみた「美」の捉え方を説明するなかで、この「霊台」という言葉が次のように使われています。

「丹青は画架に向って塗抹(とまつ)せんでも五彩の絢爛はおのずから心眼に映る。ただおのが住む世を、かく観じ得て、霊台方寸のカメラに澆季溷濁(ぎょうきこんだく)の俗界を清くうららかに収め得れば足る。」

ここで「方寸」とは「霊台」と同様に「こころ」という意味です。ですから「霊台方寸のカメラ」とはその前の「心眼」と同じ意味と理解できます。要約すると、画家は「感じたもの」をただ画架(キャンパス)に写すのではなくて、「霊台」という「心眼」に収め得ればそれで十分なこと。つまり芸術家は、「美」を「心眼」とか「霊台」と呼ぶ、直感的な無意識の世界に収められる能力をもっている人であると言っているのです。

このように、漱石の『草枕』は、「霊台」が「深層心」とか無意識の世界を意味している、絶好の材料を提供しているように読めます。ならば、背中のツボ「霊台」に対しても、「深層心」とか「無意識への扉」として捉えられると考えるのです。

ここで関連して、「霊台」解釈の更なる援軍が現れます。それは帯津良一(医師)です。鎌田茂雄(仏教学者)との対談で、帯津が「末那識」と「阿頼耶識」について、次のように述べています。

免疫が半分解明されたところで、あと自然治癒力が手つかずでまだ残っているというわけです。(中略)唯識で言うと「末那識」が免疫のところである。自分(自我)ということを考える。「阿頼耶識」の共通の生命のようなところが自然治癒力だろうと、私は思っている。

帯津は、ある空間の持っているポテンシャルエネルギーの総和を自然治癒力だろうと仮説していますが、その空間を「無意識」のレベルの「阿頼耶識」においているのです。

以上のように、背中の霊台について「こころ」の面から調べていくと、「深層心」とか「無意識」の意味合いに捉えられ、さらに、帯津理論を加えると、免疫とか自然治癒力に通じていきます。
ことほどさように、背中のツボ「霊台」は、これほど大切なツボはないと確信できます。最近では、すべての患者さんに、そうした眼差しをもって「霊台」に施灸するよう心がけています。
(つづく)

※『新釈漢文大系8:荘子(下)』明治書院(昭和42年)
※夏目漱石『草枕』新潮文庫(昭和25年)
 英訳された『草枕』はピアニストの鬼才グレン・グールドが愛読していたとか。
※鎌田茂雄・帯津良一『気と呼吸法』春秋社(99年)
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