第46話:「磁石」と「指の極性による触診技術」

◆磁石の効用と使い方
慢性の肩こりの人なら、ほとんどの方がピップエレキバンを使った経験があると思います。磁石による磁力は、筋肉の血行がよくなることは経験的にわかっています。このような磁石を使った治療は、結構古い時代からありました。たとえば18世紀後半のウイーンで、フランツ・アントン・メスメル(1734~1815)が、磁石とあらかじめ磁性を帯びておいた自分の手を使って治療したことは知られていますが、メスメルはどちらかというと「オカルティズム」の人物。昔は、磁石が不思議なパワーをもった代物として扱われていたようです。

現代の鍼灸では、治療家によっては磁石を併用する方がいます。その場合、厳密にいえばN極とS極の使い分けが問題になります。鍼灸治療の場合、刺激特性の差として、生気を補う「補法」と、邪気をとる「瀉法」がありますが、磁石を使う場合は、一般的にはN極が「補法」、S極が「瀉法」として扱われています。その場合、専門的な使い方になりますが、コリを取るために、コリから離れた手足にある二つのツボに、ひとつはN極、もうひとつにS極を貼るという使い方をします。

一般の方が使う場合は、そうした専門的な使い方はできませんから、直接コリがあるところに「補法」のN極を貼ればよいのです。それを理由にしたかは分かりませんが、実はピップエレキバンついている磁石は、皮膚に面する方が全てN極になるようにセットされています。専門家の立場から、ピップエレキバンの使い方について助言するならば、ぜひ個数を少なめにすることです。多いから効果的とは限らず、かえって身体に負担になることがあります。最もこっているところに1~2個で十分です。それと元々身体が敏感な方には、絶えず磁力を受けることはお奨めしません。

◆指の極性
次に、人間の指にも磁力があって、指ごとに極性があることを紹介してみましょう。このことにいち早く気付いた人物は「筋診断法」を考案した河野忠男です。指ごとに磁石が存在しているかのような極性の分布は、下の写真に示しました。ただこれは男性の場合です。女性の場合は男性と全く逆になります。



指の磁力といっても、何ガウスと計測できるほどではありません。あくまでも人間の身体には微量ではありますが磁場を形成し、手の指にはこのような極性分布が存在するということです。この覚え方は、男性はまず左の手掌がN極で、親指がそのままN極、人差し指がS極、中指がN極・・と交互にかわり、右の手掌がS極で、親指がそのままS極、人差し指がN極、中指がS極・・と交互にかわります。両手を合わせると互いにN極とS極の関係になります。そして女性の場合は逆に、右の手掌がN極で親指もN極、左の手掌がS極で親指もS極となり、他の指の極性は交互に変化していきます。

これが実際本当かどうか確認する方法があります。U字形の磁石(または短い棒状の磁石)のN極とS極に、それぞれ親指と人差し指(または親指と薬指)で挟むように触ってみます。そのときにNSを反転してみた2通りのやり方で、指が受ける感触を比較してみるのです。すると極性をかえることで「重く感じる」「軽く感じる」の感覚的な違いを実感できます。もし磁石がなければ、乾電池の(+)(-)を挟むように触るやり方でも、同様の違いを体感できます。

◆指の極性を応用
また実用法としては「手当て」があります。たとえば子どもが、お腹が痛いといったときに、すぐにできて子どもが安心するのが親による「手当て」です。その場合、お母さんであれば右手で、お父さんであれば左手で、お腹にやさしく手を軽く当てればN極の補法として作用し、とても効果的なのです。

私の場合専門的になりますが、ツボを探す際(取穴法)に、指の極性を最大限に利用しています。体表上の変化を探るのに、基本的に右手の指3本(第2~4指)で触診しますが、それと同時に、左手の中指(N極)を使って、関連するツボを検知していくやり方です。

具体的に肩凝りを例にとると、コリが生じやすいのは、肩の部分を走る経絡の「小腸経」か「胆経」か「三焦経」のどちらかです。一番凝っている部位を右手の指3本で触診すると、そこが小腸経の「肩外兪(けんがいゆ)」だったとします。小腸経は手の経絡です。右手の指3本で「肩外兪」を触診しながら、同時に左手の中指で、肩凝りと同側の手の小腸経のツボに軽く触っていきます。すると小指に近い「腕骨」という手のツボに触れたときに、「肩外兪」のグリッとしたコリが弛むのが分かります。同時に、患者さん自身の感覚としても、コリが弛んで痛みが軽減することを実感できます。私の左手の中指で捕まえた「腕骨」が治療すべきツボとなるわけです。これは専門的には「循経取穴(じゅんけいしゅけつ)」といいます。体表上のコリなどの異常部位に関連した経絡上のツボを探す方法です。

このように、ツボに指1本触れることが、ピップエレキバン(磁石)を1個貼るのと同じ効果があるといえますし、私はこれを利用してツボを探す方法に応用しているのです。私にとって右手の指3本と左手の中指は、まさにセンサーでありテスターのようなもの、ピアニストの指と同じくらいに(?)大事な部位です。私に限らず、伝統的な鍼灸の治療家は、多くの患者さんの身体を触ることで、触診技術をみがき、いわゆる「治療家の手」を作っているのです。指1本のN極とかS極の極性にもこだわるとても繊細で、伝統的職人の世界です。こつこつ修行の旅はこれからも続けます。

※コリン・ウイルソン/中村保男訳『オカルト』平河出版社(85年)
メスメルは小説になりそうな奇想天外なる人生を歩んでいます。ちなみに催眠術(メスメリズム)を考案したのはメスメルというのは間違いで、正確にはメスメルの弟子のプュイゼギュール侯爵とのこと。
※河野忠男『筋診断法精義』宝島社(93年)
指の極性に気付いたのは80年代前半とのこと。
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