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第48話:聴き手の受容性

いきなり医療面接の問題です。
「私はもうだめなのでしょうか?」という患者のことばに対して、次のような選択肢が立てられています。あなたならどう答えますか?

(1)「そんなこと言わないで、もっと頑張りましょう」と励ます。
(2)「そんなこと心配しないでいいんですよ」と答える。
(3)「どうしてそんな気持ちになるの」と聞き返す。
(4)「これだけ痛みがあると、そんな気にもなるね」と同情を示す。
(5)「もうだめなんだ・・とそんな気がするんですね」と返す。

これを医療関係者にアンケートをおこなったところ、医学生は(1)。看護師はほとんどが(3)。精神科医は(5)と答えたそうです。正解は(5)になります。

コミュニケーションの基本的技術で一番重要なことは、「耳を傾けて聴くこと(傾聴)」です。その中で、相互理解を得るために「共感」とか「波長合わせ」ということも大切になります。また問題を明確にしていく中では、時には「励まし」も使うこともあります。看護師のほとんどが選んだ(3)は「オープンクエスチョン」という質問形式に分類され、「もう少し詳しく・・」等の質問を投げかけることで、患者さんの自由な答えを引き出す技法です。

なんだかこうしてみると、(5)以外も一見正しい選択肢のように思えます。しかしこの問題のねらいは、相手のメッセージに対して受け手がどういうサインをだすかにあります。
つまり相手のことばが自分に届きましたよということを相手に示す一番効果的な方法は、同じことばを繰り返すことです。同じことばを繰り返すのは、意味性のレベルではなんの意味もないことに思われるでしょうが、実は「あなたのメッセージが私に伝わりました。コンタクトが成立しました。」ということを示す一番いい方法なのだそうです。

鍼灸治療の場合は、問診だけではなくて、体表に触れてツボの反応を診たり、脈を診たり、舌を診たりなど、身体の声を聴く診察技術はとても豊富です。実際、触診とか脈診から得られる情報は、患者さんが発する言葉と同じくらいの「身体の声」になります。例えば、質問しなくても、ツボの反応から「身体の声」をしっかりキャッチすることもできるので、その「身体の声」をしっかり受け取りましたよ、という意味で「これはつらかったでしょう」と患者さんに返すこともあります。こうした鍼灸の診察技術は、患者さんと治療家の間におけるいわば「気」のキャッチボールです。患者さんが投げてきたパスをしっかり受け取りましたよという治療者側の受容性は、信頼関係を築く上でもとても大切なことだと実感しています。

※鷲田清一『「聴く」ことの力』TBSブリタニカ(99年)
※内田樹『死と身体―コミュニケーションの磁場』医学書院(04年)
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