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第60話:わが母の教え給いし「お灸の話」

わたしの母は85歳で亡くなるまで毎日お灸(カマミニ)をしていました。70歳を過ぎてから、慢性の心臓病と坐骨神経痛を抱えていました。78歳には心房細動から血栓が腎臓に飛んで腎梗塞を起こし、片方の腎臓が機能しなくなります。それではと、わたしが帰省した折に母にお灸を勧め、適当なツボを教えました。78歳から亡くなるまでほぼ7年間、毎日お灸したことになります。直接治療してあげられない親不孝のわたしができることは、毎月お灸を送ってやることぐらいでした。

ときおり電話で様子を聴きながら、お灸の効果のほどを確認してみると、母はお灸がすっかり気に入った様子。ところが母の口からは、わたしが教えたことのないツボの名前がポンポンでてくるのです。どうも自分でツボの本を買って研究を始めたようです。大正生まれの母は終戦前後に教員をしていました。基本的に人の話を聴くより人に教えることが好きな性格。あとになって、母が持っているツボの本を見せてもらうと、要点どころに朱線がいっぱい引いてありました。

そんな研究熱心な母は、次第にプロであるはずの息子にしっかりお灸の講義?をするようになります。気丈に話す母はとてもうれしそうなので、わたしは電話口で「ハイハイ」と黙って聴いてあげます。そのときにメモをしたのが次のような内容でした。

◎「三陰交(さんいんこう)」は足が温まり調子が良い。冷えがひどいときは2個並べてやるといいようだ。お灸の代わりに円皮鍼を貼るのも持続的に効いている感じがするが、はがれてしまうのでやっぱり毎日のお灸の方がよい。
◎「大敦(だいとん)」にお灸を毎日したら失禁の量が半分に減ってきた。
◎白内障の手術をする前は毎日「二間(じかん)」にすえていた。幾分いいようだった。
◎便秘には「神門(しんもん)」に灸をすると必ず翌日までには排便がある。左の「神門」の方が効くとされているので左に2個右に1個をすえている。
◎食後にお灸をすると効果が半減するのでさける。(食後は消化器系に血液が回るから)
・・などです。(実際はすべて庄内弁で話しています)

こうして母は、きわめて実証主義的な姿勢で毎日お灸をしていたわけです。身をもってわたしに教えてくれたことに感謝するばかりです。母の最期は、家族にそれほど介護を煩わせることなく、病院に入院することもなく、自宅で静かに亡くなりました。お灸のもつ「力」を母が教えてくれたと信じています。
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