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第74話:「お灸」の力を教えてくれた人

◆お灸をしてほしい
6年前のこと、昭和一桁生まれのAさん(男性)が「すべてお灸で治療してほしい」といって来院されました。すでに2軒の治療院(鍼灸整骨院)を廻ってみたそうですが、いずれも「お灸だけの治療はできない」と無碍に断られたとのこと。というのもAさんがいう「お灸」とは、昔ながらの「透熱灸」のこと。お灸のなかでも手間ひまがかかるので、「透熱灸」を扱う治療院は昔と比べると少なくなっている事情もその背景にあります。そこでわたしは「よろこんで治療させていただきます」と応えると、Aさんはほっとした表情をされたのを今でもよく覚えています。

◆お灸にこだわる理由
Aさんは胃がんの手術をして退院したばかり。抗がん剤を服用しながらもなんとか体力は維持したい、と治療の目的を話されます。永いこと独り暮らしらしく、食事に気をつけているとはいえ、ときおりの「ダンピング症候群」(胃を切ったことによる食後の嘔吐、動悸、腹痛などの症状)に悩まされていました。

そんなAさんが「お灸」にどうしてもこだわりたい理由は、子どものころの経験にありました。親が心配するほどの虚弱児だったのが、近所のお灸の先生に治療してもらってから、すっかり丈夫な身体になったとか。あのときにお灸をしてもらったから今の自分があると断言されるほど、とにかくAさんはお灸には絶大なる信頼を寄せていました。

◆取穴
さっそくわたしが治療に選んだツボは「腎」と「胃」に関係するツボでした。「腎」は生まれながらの元気の源である場所。それと「胃」に関しては、胃を切ったとしても(東洋医学における)「胃の機能系」がなくなることはなく、むしろ治療すべきといわんばかりに「胃経」のツボにしっかり反応が出ています。そうしたツボひとつひとつに丁寧にお灸を据えました。そうした治療を週に2回、数か月は続けたと記憶しています。

◆お灸の効果
治療すると身体が軽くなる、それとお腹が痛いときにお灸してもらうとお腹がほんとに楽になる、とAさんはいいます。それとお灸しながらの会話でずいぶん気持ちも落ち着くようです。わたしが話すというより、Aさんから話をひきだしてじっくり聴きます。ふるさとに自分の墓をすでに用意したので覚悟はできている、といいながら「死ぬのはこわい」と正直に吐露されたこともありました。担当医からすでに「余命6カ月」と宣告されていたAさんは、その6カ月がすでに過ぎてからもお灸の治療は続けていました。「こうやって生き延びているのはお灸のおかげ」とまでいい切ります。

こうしてお灸治療が、がん患者さんのQOL(いのちの質)を向上できることを、Aさんは身を以て証明してくれました。ところが、次第に肝臓への転移が広まってくると、小康状態が維持できなくなるのもまさに現実でした。ついに自宅療養の限界がきてしまい、Aさんは再入院と同時に二度と来院することはありませんでした。

こうしてAさんとは限られたご縁であったとはいえ、お灸のもっている「力」を、Aさんの治療を通してわたしはAさんから直接教わったと今でも確信しています。
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